歪め。【宇髄天元】

あの日 ページ42

数年前、私はずっと住んでいた地元を離れた。


『もしもし、お母さん？うん、無事に着いたよ』

初めての一人での遠出は、恋人からの逃避行。
なかなかドラマチックだ。

両親にはかなり心配されたけど。


見慣れない街の駅で、親に電話をすることになっている。

生きていますよという報告だ。

母はとりあえず安心したように、
でもこれから気をつけてねと言葉を並べる。


まったく、子供じゃないんだから。


『え？宇髄くんが訪ねて…』

デートの約束をすっぽかしたから当たり前か。
ほんの少し心が痛む。

私の頼んだ通り、両親は宇髄くんには多くを語らなかったらしい。

「…本当にこれでいいの？」

母はずっと心配そうだった。

『大丈夫。宇髄くんはこんなことで落ち込まないよ』

けれど母は、続けた。

「彼、本当に心配していたようだけど」

息を切らして慌てて訪ねてきて、無事だと聞いたらひとまず安心したようで。全て察したように寂しげだったらしい。


「元気でな、って言ってたよ」


『…そっか』

いや、何それ。
他にもっと言うことあるんじゃないの。

けれど、想像がついてしまう。

仕方ないよな、なんて訳知り顔で笑う彼の姿が。
いつまで綺麗でいるつもりなんだろうか。

『…元気にやるよ。ありがとう、お母さん。じゃあね』


電話を切ると着信履歴が目に入る。

何度も何度も、宇髄くんから着信が来てて
それを無視するたびに私は我慢してた。


けど、もういいかな。


連絡先を、削除する。
とめどなく溢れる涙が液晶画面にぼたぼた落ちる。

もう泣かないって決めてたのになぁ。



『…さよなら、宇髄くん』

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