歪め。【宇髄天元】

誘う ページ35

結局何もできないまま翌日を迎え、

Aは出勤してきた。

またまた酷いやつれようだった。

教師たちはAを見てぎょっとしたあと俺を睨む。
肩身が狭いとはこのことだ。

言葉を交わすことも出来ずに、極力目を合わせなかった。


「おい宇髄、何をしている」

伊黒に肘でつつかれる。

『何をしてるって、何もできねぇっての』

「意気地なし」

冨岡も肘でつついてくる。

なんなんだよ…

『あのな、もういいから。俺が何したってあいつは嬉しくねぇし』

そう言うと二人は目を見合わせて肩をすくめる。
お前らそんなに仲良かったっけ。



そのまま昼休み。

コンビニで昼食を買い、戻って来ると

『ん？』

俺の机にメモが貼ってある。


Aの字だ。心臓が跳ねる。

内容はただの業務連絡だった。
直接話す気はないのだろう。


しかし、裏に文字が見えて心臓は再び激しく収縮した。

ごめんなさい、から始まる文が
小さな文字を敷き詰めるように書かれていた。

本当に、真面目というか、律儀というか。

気づけば笑みを浮かべていた。


顔を上げると、Aと目が合って、すぐに逸らされる。


まだ都合のいいことを考えている俺は
多分、本当に馬鹿なんだと思う。

ごめん、お前のおかげでおかしくなってる。


『A』

下の名前で呼ばれたからか、Aはかなり驚いた顔でこちらを向く。


『つまんねぇよな』

「え」

『たまには、違うことしてぇよな』

手を差し出す。

今の俺の笑顔は、これまで作った中でいちばん下手くそだろう。



Aは怪訝な顔で、俺の手を取った。

潰れる→←省みる

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す