歪め。【宇髄天元】

出逢う ページ24

最近宇髄くんが付きまとってこなくなった。

言ってしまえば、快適。
せいせいするとはこのことだ。

多分また私で遊んでやろうとでも思ったのだろうが…
私はつまらない女だからね。


「…お、Aじゃん」

と、街中で突然名前を呼ばれた。

『あ、久しぶり』

見覚えがある。昔の…というほど昔でもない知り合いだ。
いや、ただの知り合いではないか。

「こんなとこで会うとは思ってなかったな。元気してた？」

『うん、元気だったよ』

隠す必要がないので言うと、前の恋人だ。
あんまりうまくいかなくてすっと別れてしまったけど。

「…綺麗になったな」

『え？あ、ありがとう…』

少し反応に困る。

「最近どうなんだ」


『うん、順調…かな』

宇髄くんの顔が頭を横切り、歯切れが悪くなる。
順調とは言い難いけれど、目の前の男に言うほどじゃない。

「そうか…なぁ、恋人いるの？」

『い、いないよ』

正直に答えてしまうものの、
こんなこと聞いてどうするんだろう。

「あぁ、そうなんだ…実は俺もそうでさ。
よかったら二人で話しない？」


どういうつもりなのかは、なんとなく分かった。
最近こんなことばっかりだ。

『えっと…私今急いでて』

私には到底そんな気はなかった。

「じゃあ、また連絡するよ。
一緒にご飯でも食べよう」

『うん…』

どこか、ただならない雰囲気だった。

どうして？簡単に別れてくれたのに。






「A〜、じゃなくて砂川」

『わざと間違えてますよね』

「そんなことねぇよ」

何度も何度も間違えてたら誰だってわざとだと思います。
けれど宇髄くんが私を名前で呼ぶのは、本当に二人の時だけだった。

律儀なのかなんなんだか。

「修正テープ借して」

『はい』

「サンキュ」

妙な距離感は、あの頃を思い出させる。

他人のふりをしているけれど、見えないところでは繋がっていて
そう思っていたけれど結局他人で。


難解すぎて面倒になった。

「…なんかあった？」

『ううん、何も』

「あ、そう」

口調が乱れていることに気づく。いかんいかん。

何もないことはないのだ。
あの人…この前街で会った元恋人からずっと連絡が来ていて困っている。

あ、また電話だよ。スマホの電源切りたいけど、そうもいかない。

『すいません、何度も…』

「気にすんな」

例のごとく食事の誘いだった。
仕事だからと強めに言って電話を切る。

宇髄くんはそれをずっと見ていた。

『なんですか？』

「…いや、何も」

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