聞く ページ19
「砂川先生、まだ残るの？」
『はい、キリのいいところまで終わらせたいので！』
「頑張るわね〜」
胡蝶先生が微笑んでそう言ってくれるだけで疲れなんて吹っ飛ぶ気がする。
「こんな時間まで残るなんて…あ、でも一人じゃないなら大丈夫ね。
じゃあお先に失礼します」
『はい！お疲れ様でした』
一人じゃない…？職員室には私一人しかいない。
いちおう警備員さんが見回りをしているくらい。
まぁ、いいか。仕事を終わらせよう。
『…』
…なんか、聞こえる。
微かだが、これは…
どうする？見に行く？行った方がいいのか？
職員室のドアを開け、廊下に顔を出すと、その音は先ほどよりははっきりと聴こえる。
誘われるように、足を踏み出していた。
電気はついているが、その音以外はせず静まりかえっていて、やっぱり不気味だ。
『…やっぱり』
音楽室。音の主は、ピアノだ。
どうして来てしまったんだろう。
繊細に、物悲しい音で彩られるその曲は、聞き覚えがあった。
ドアの隙間から横顔を眺めて、思考を巡らせた。
ーーーーーー
高校生の時の、あの日。
忘れ物を、取りに帰ったんだ。
夜の学校。怖い。
それで、音楽室の前を通ったら音がしてて。
CDで流れてるんじゃないかってくらい、綺麗だったけれど、誰かがピアノで演奏をしていた。
夜の学校でひとりでに鳴るピアノ。
学校の七不思議の定番であるが、その音色は余りにも美しくて
もし本当にピアノが勝手に鳴っているのならそれは幻想的だとすら思った。
だから、ドアに手をかけた。
『…』
誰だろう。
少なくとも、肖像画から出てきた音楽家というわけではなさそうだ。
知らない雰囲気だったから。本当に、誰か分からなかった。
『宇髄くん』
でも、姿は見覚えがあった。
彼は顔を上げて、手を止めた。
かき鳴らしていた和音の余韻が部屋を満たしている。
「…こんな時間に何してんだよ」
演奏をやめた宇髄くんは、ちゃんと私の知ってる宇髄くんだった。
『えと…忘れ物取りに…』
「…そか」
『その曲…』
綺麗な曲。どこかで聴いたことがある。
あんまりクラシックには詳しくないけれど…
ーーーーーーー
『…愛の夢』
思い出した曲名を口に出している。
曲が止まった。
「覚えてんだな」
ドアの向こうで宇髄くんが言った。
昔のことを、はっきり思い出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 46人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いのり(プロフ) - ゆんさん» 気に入っていただけたようで嬉しいですっっ（ ; ; ）応援ありがとうございます、頑張ります！！ (2022年2月10日 15時) (
レス) id: 13648d0b87 (このIDを非表示/違反報告)
ゆん(プロフ) - めっちゃ好きです、この歪んだ宇髄さん……前から拝読しておりましたが、好みすぎてコメントしちゃいました（笑）これからも無理のない範囲で更新頑張ってください♪楽しみにしています😌 (2022年2月8日 7時) (レス) id: 45bbc3e57c (このIDを非表示/違反報告)
いのり(プロフ) - ＊カスミソウ＊さん» ありがとうございます♪ここからも拗れまくります！ぜひお付き合いくださいー！！ (2022年2月2日 6時) (レス) id: 13648d0b87 (このIDを非表示/違反報告)
＊カスミソウ＊(プロフ) - 読ませていただきました！なんともいえない2人の関係にきゅんとしながら見ております！とっても面白かったです！次の更新も楽しみにしております(*^^*) (2022年1月29日 11時) (レス) @page34 id: b38fa73fcf (このIDを非表示/違反報告)
いのり(プロフ) - まっひーさん» かっこいいの分かります(*´꒳`*)コメントありがとうございます！ (2021年12月26日 12時) (レス) id: 14af0b5718 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
