冨岡さん、人違いです！【鬼滅の刃】

草野球 ページ8

砂に描かれた歪なダイヤモンド。
その真ん中に冨岡さんが立つ。

『がんばれー』

気の抜けた応援をする私を冨岡さんは一瞥し、
球の弾力を何度か確かめると、前をきりりと見る。

投球の姿勢に入る。

体を逸らし、腕をしならせる。
弓矢を放つかのように腕が振れ、ボールが飛んだ。

「わ」

少年が見事に空振り、ボールはその後ろのグローブに収まった。

「三振！バッター交代！」

「ちぇ、こんな怪物ピッチャー連れてくんなよ」

『がんばれ少年ー』

しかし、すごいのはピッチングだけではない。

バットを振れば心地良い音を鳴らしボールが空へ吸い込まれる。
地面を蹴ればすさまじい速さで土の上を駆ける。

運動神経抜群だ。

『おぉ…』

その姿に不本意ながら見惚れてしまう。

善逸も言ってた。男は足が速けりゃモテるって。
それはないだろうと思ったが、かっこよく見えるのは確かだ。

「タイム！駄目だあのにいちゃん勝てるわけないよ」

「手加減しないんだもん、それはいいけどさ」

「ちょっとあっちのおねえちゃんと代わってよ」

「『え』」

突然の指名を受けた。
見とくだけでいいって言ったじゃん。


「バッター交代！通りすがりのおねえちゃん！」

やば、バットとか握るの何年ぶり？
期待しないでよ素人のおばちゃんに。
…誰がおばちゃんだ！

「いくよー」

球が飛んでくる。

かろうじてバットにボールが当たるものの、
振り切れずにぼてぼてと転がる。

「はいはい走って！」

『えっ』

もちろん走ったところでなんの意味もなく
というかちょっと走っただけでこの息切れは何？

「ねえちゃんショボいなー」

『わ、悪かったね！』

呆れ顔の子供にバットをもう一度渡される。
頭きた、今度こそかっ飛ばしてやる。

「全身を使え、柏原さん」

冨岡さんだ。

「落ち着いてボールを見ろ。
できるだけ真っ直ぐに力を伝えるようにするといい。
力まずに流れるように…」

饒舌だな、こういう時だけ。

「とにかく、がんばれ」

『言われなくてもがんばるよ！』

バットを構える。

投げた。

さっきよりも、速い。
けれど臆することはない。
しなやかに空気を裂いたバットが、球を打つ。

「わ」

『わわ』

「おぉ」

ボールは綺麗な弧を描く。
誰もが頭を上げ、その感動的とも言える滑空を見守った。

「…逆転ホームラン！」

はしゃぐ子供たち。

冨岡さんの方を見ると、無言でグーサインを送られた。

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