鋼鐵塚蛍が嫁を取ったらしい【鬼滅の刃】

二十八.朝 ページ29

朝起きて、すぐに蛍くんの顔が見られると嬉しくなる。

誰にも決して言わないことだけれど
私のささやかな幸せだ。


凛々しい眉に長くて目立つ睫毛。
その奥につぶらかつ情熱を秘めた瞳が埋め込まれている。

誰もが口を揃えて言うことだ。


鋼鐵塚蛍は黙っていれば申し分のない二枚目なのに。


それくらいの顔立ちなのだ。

とにかく、普段顔をまじまじと見る機会もないので
寝起きのこの時間は至福だった。


「…んぅ、A…それ、は…」

と、少しだけ開いた口から声がする。
寝言だろうか。

私の名前を呼んでいたし気になる。聞き耳を立てる。


「あんこも…いが…やっ…り…みたらしだ…ろう…」

吹き出してしまう。
なんて呑気な夢を見ているのだろう。

「いや、食う…」

あんこでも食べるのね。


と、突然手を掴まれる。

ふにふにと手を揉みつつ、形を確かめるように撫で回されて顔が熱くなる。
落ち着け、私。蛍くんは寝ぼけているだけなんだから。

「おれは…っとかたいのが…好き…」

知らないよ。


どうにか我慢していたけれど、指を咥えはじめた時には声を上げそうになった。

変な感覚だ。
って、ちょっと待って、舐めないで！噛まないで！

無言で足をぱたぱたさせる。

刺激というよりは、羞恥に耐えられない。


「ん…A、これ…磯部餅……」


蛍くんはそれだけ言い残して、再び深い夢の世界へと戻っていった。

手は握られたままで、指先には歯形が残った。

『もう…』

少しくらい、やり返したっていいよね。


距離を詰めて、睫毛の先端に触れる。
本当に長いなぁ、うらやましい。

髪に二度三度指を通して、口付けを落とす。

こんなことだけで、胸は少し跳ねる。


長い髪でひとしきり楽しんで、そろそろ目覚めの接吻でもと思い向き直ったところで、

目が合った。


『ほ、蛍くん、お、はよう』

「…お前」

いつから起きていたのか知らないが、髪に唇を触れさせてひとり笑っていた私は確実に目撃されただろう。
は、恥ずかしい。


「朝から欲しがりだな」

いつもより低い声で囁かれ、体が僅かに震える。
蛍くんは口角を少し上げて、私の腕を強引に引いた。

『ちょっと、待って』

「待てねぇ」

あっという間に隣の布団に引き摺り込まれ、彼の腕の中に収まっている。

どっちが悪いなんて考えちゃいけない。
その気にさせたことに変わりはないのだから。

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