鋼鐵塚蛍が嫁を取ったらしい【鬼滅の刃】

十八 ページ19

それから、誰がどう見ても迷ってしまった俺たちは、朝になるまで彷徨い歩いた。

「蛍くん…」

『なんだよ』

「ここ、どこ…？」

『知るか。次あっち行くぞ』

疲弊しきった顔のAにも構わず、
がむしゃらに歩き続けていた。

そうしなければ、本当に帰れない気がした。


「…休憩したい」


当たり前と言うべきか、Aはついにそんなことを言い出した。

『休憩なんてしてる暇ねぇよ馬鹿…』

Aの方を振り向くと、顔色を悪くしていた。
息もすっかり切らして、今にも倒れそうだ。

自分より七つも下の女の子なんだと今更思い出す。


Aに背を向け、しゃがむ。

『おら、おぶってやる』

「でも…」

『ガタガタ言うな、早く』

Aは躊躇した。

『心配すんな。もうすぐだから。
ちゃんと帰してやるって言ってんだろうが』

もうすぐ、というのは希望を込めて言っただけに過ぎない。

「…うん」

が、Aは大人しく背中に乗った。
前におぶった時より重みがかなり増していて驚く。

少しよろめいてしまう。

「蛍くん大丈夫？」

『お前くらいなんてことねぇよ』

強がりつつも、よたよた歩いていると。


「…蛍くん」


見覚えのある景色だった。
やっと、河原に戻ってきたのだ。

これで帰れる。


そう思った瞬間体の力が全て抜けた。

『はぁ…っ』

両膝をつく。今すぐにでも横になりたい。
目の前の空は白んでいる。

「蛍くん、蛍くん」

Aがぺたぺたと頬や頭を触ってくる。

「帰れるよ。蛍くん。私たち帰れるよ」

今まで我慢していたであろう涙を溢していた。
俺も、Aも限界だった。

それから大人たちが探しに来て、こってり絞られるのだが。





その日からAに限って下の名前で呼ばれることは気にならなくなった。

何度も呼ばれて、俺もそれをほとんど受け入れていたので今更気にかけることもなくなったのだろう。半分諦めも入っていただろうし。

単純すぎるかもしれないが、子供なんてそんなものだ。


「…けど、特別ってなんだか嬉しいなぁ」


そんなことを言われると、胸の奥がくすぐったいのはどうしてだろうか。

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