恋の花（2）

＊花 81＊ ページ33

無心で二階まで上がった。



おやすみって部屋に戻る後ろ姿は

もう見ない。









気持ちを
どこへ持っていっていいのかわかんなくて


階段の中腹で足が固まる。












泣きたいのかな？


このまま部屋に戻って笑える？


でもだいぶ時間は過ぎちゃってる。

えりにまた心配かけちゃうな…








頭にモヤがかかったみたく
ぼーっとして

考えがまとまらない。



相変わらず足は固まったまま。




















「A。」





突然

優しく響くその声。


すぐに誰だかわかる。






でもなぜか

来ないでって思った。









なかなか振り向けずにいると

背後に感じる気配。









懐かしい感触が頭上に広がる。


視界が隠れた。









「…泣けよ。」








その言葉は
私を引っ張り上げる。



そして

背中を押す。













「これで俺見えないから。」






頭にぽんって置かれた
優しい手。


フード越しでもじんわりと伝わる
あたたかい手。









太輔…






やっぱり私

泣きたかったんだ。










両手で顔を覆うと

待ってましたとばかりに

大粒の涙が


次から次へとこぼれてくる。







「頑張ったじゃん。すげぇよ。」













小学校のとき
男の子に意地悪されて泣いた。

そのときのお母さんの手。





中学校のとき
大会で負けて悔しくて泣いた。

そのときの友だちの手。







そして今


想いが届かなくて


泣いてる。








この手に

ほんの少しだけ


甘えても…いいのかな？









頭の上にあったその手は


私の肩を

そして顔を覆う両手までを



すっぽりと包んだ。










太輔の腕が

手のひらの隙間から見える。










促され、振り向く。









「…ごめ…っね？」





「いいから。全部出して。

一人になったとき、もう泣かないように。

ぜんっぶ。」










今度は正面から


抱きしめられる。







その力は
徐々に増していったけど


不思議と
痛いとは思わなかった。








嗅ぎ慣れない旅館の匂いと

うちとは違う柔軟剤の匂いが



混ざり合う。

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