恋の花（2）

＊花 52＊ ページ4

気配もなくそれは突然響いた。



大好きな声。








「おっ、横尾さん！
Aちゃんのアドレスゲット〜！！！」



脇に自転車持って佇む彼に向かって
印籠のように手のひらを掲げる。







それを見た横尾くんは

少し呆れて笑うと



「よかったね。」


って。









逃げ出したい。
















「俺もチャリ持ってくる〜！」


上機嫌な北山くんが自転車置き場に向かった。









二人きり。


どのタイミングで立ち去るか
そればかり考えた。














沈黙を破り口を開いたのは横尾くん。





「佐藤さん、ミツ…大丈夫？」




落ち着いてて、少し深い声。













うん


すごく人気のある人だから

本気なのかが分からないから






大好きな横尾くんの友だちだから




少し…困ってる。







言えもしない言葉を頭に並べ

曖昧に笑う。








でもね

ほんの少しでも気にかけてくれたことが


もう、うれしくてうれしくて




逃げ出さなくて…よかったって。




うれしさ隠すように
唇ギュッと閉じて下向いた。















「もし何か困ったことあったらさ…







続く彼の言葉にゆっくり顔あげる。


また急速に加速し始める心臓。





それは傷つく恐怖。













…ちゃんと太輔に言いな？」









残酷な優しさ。





ゆるく微笑む彼に


なんで…笑ってるの？

なんてお門違い。







胸元のトレーナーを
思いっきりぎゅーって握りしめる。




少しでも胸の痛みを

苦しさを

和らげたかった。









「うん…。」









帰る後ろ姿全体からは

無関心が透けてみえるようで


自分の存在が彼に与える影響は皆無なんだって



またひとつ知った。








横尾くんは

りさちゃんのヒーローだもんね。









なんかもう…



折れそう。

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