恋の花（2）

＊花 78＊ ページ30

…やっぱり

時間は流れてたんだ。









現実に戻される。









そうだった。



あの劇の主人公も


欲を出してしまった途端に時は流れて

現実に戻されたこと




今、思い出したよ。













なかなか腰を上げられない私をよそに


飄々と先生に返事をし

なんのためらいもなく
ソファから立ち上がる横尾くん。







その姿に

温度差痛いほど感じた。








ゆっくりと後に続く。









すると突然

大きな手のひらが
私に向かって差し出された。











この後に及んで


頭の片隅で

ほのかに期待してる自分が情けなくて




立ちつくす。









そんな私を不思議そうにみると


丸い穴二つあいたゴミ箱指差し



缶ちょうだい？って。










気づかれないように

肩で大きく息する。




バカみたいな期待も

それと一緒に吐き出した。









小さく

ありがとうって手渡した空き缶が

ゴミ箱に放られる。






なんだか

自分の気持ちまで
簡単に捨てられてしまった気がして




箱の中でカンッて鳴る音が





いつまでも耳から離れない。



















部屋までの道のり。


無言で歩く廊下。






さっきから

隣を歩く彼に

触れそうで触れない左手


右手でぐっと寄せた。









男の子の部屋は二階と三階。

女の子の部屋は四階と五階。









ぼんやりとともる室内灯。


廊下の端には

冷たい光放つ非常口マーク。







並んで階段登る。







心もとない灯りが

塞ぐ気持ちに拍車かけてく。










こんなに近くにいるのに


横尾くんの隣にいるのは

私じゃないんだ。









響くふたつの足音は

すごく不揃いで


まるで私たちそのものみたい。






足の指ぎゅって丸めて

スリッパの音静めた。




























「あっ、そういえば佐藤さんさっきさぁ…」






思い出したように口開く。













「俺と初めて話したときにマネージャー似合うって言われた！

って言ってたけど、それ違いますよ？」














…まさか












勢いよく顔あげる。










そこには

ものすごく得意げな顔で笑い


私を見下ろす横尾くんがいたの。

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