恋の花（2）

＊花 59＊ ページ11

一階の角にあるこの工芸室。



授業以外は人の出入りがほとんどないここで

一年のときはよく
一緒に弁当食べたり話したりしてた。





静かな部屋。

独特な匂い。


教室とはまるで違う空間。









「渉、最近なんか…変だよ？」




角イスに座り俺を見上げる。




「さっきはキツイ言い方してごめん。」





「謝ってほしいんじゃないよ。

渉、何考えてるの？

私のこと…もぉ好きじゃない？」






泣いてない。

不安そうな顔。






こんな顔
今までさせたことあったっけ？







昔から
気強いくせに泣き虫で

ケンカすると大抵泣きながら怒る。




優しい言い方や
気持ちを言葉にするのが苦手な俺は

よくりさを怒らせて泣かせた。






でも心の中ではずっと


りさの笑顔みるのが好きで


些細なヤキモチも

小さなワガママも

すげぇかわいいって思ってたんだ。




りさが悪くても謝るのはいつも俺。


それは
不器用な俺の精一杯の愛情のつもりで

早くりさに笑って欲しかったんだ。








でも最近多分違った。




揉めるのも

ヤキモチも

ワガママも何もかも


なんか面倒くせぇなって


謝れば終わるって

どこかで思ってた。




最低な彼氏だな。









「…好きだよ。」




普段ほとんど口にしない言葉。




それでもりさの表情は硬く険しいままで


これ以上何を言えばいいのか分からず

ただ時間だけが流れる。






手持ち無沙汰で

首触ったり
髪かいたり

世話しなく動いてると













「ねぇ、修学旅行のグループって…もう変更できない…よね？」





突然にりさの口から出た

想定外の言葉に手が止まる。





「なんでそれが出てくんの？」





週末に迫った修学旅行。

無理なこと承知で言ってるはず。


意図がわからない。









ごめん…

そうつぶやくと
立ち上がり

俺の腰にぎゅっと手を回す。





小さくて
細くて

すげぇ脆い。




この身体を
何度も何度も抱きしめてきた。





「いや、こっちこそごめん。」





一体何にごめんなのか分かんなかったけど

少しでも彼女の不安がなくなれば
と思ったのは確かで


頭に優しく触れ

俺の方へさらに寄せた。






「今日、一緒に帰ろ？
自転車直るまでずっと乗っけるから。」





ゆっくりと

頷く。







この部屋独特の木くずのような匂いで

あの頃がいっきに蘇る。





俺は、今も変わらない？





胸元に彼女の温もりを感じながら

ずっと窓の外見てた。

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