第3話 ページ3
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「A」
自分の名前に振り返った。父だった。
この人はいつも口元に微笑をたたえている。
彼は表情を保ったまま、こう言った。
「お父さんとお母さんを失望させないでくれ、分かっているね？」
言葉を失うとはまさにこのことだ。
彼らの望みは、私がALL FOR ONEに傾倒して自らの人生を捧げること。その目的を果たすためだけに、私を十五年間も外部との関わりが薄い世界に閉じ込めたのだ。
喉に熱い何かが込み上げてきた。
私は閉塞的な家庭で抑圧され育った。
学校にいられるのは授業が終わるまで。家に帰ったら夜遅くまで拘束されるから、外に出かけることさえできなかった。
そこで何が行われたかと言えば、熱に浮かされた顔で、ALL FOR ONEがいかに素晴らしい思想かを私に永遠と話して聞かせた。
そして時々私に質問を投げかけ、納得のいく答えが出ないと執拗に責める。まるで答えられない私が信じられないとでも言うように。私が自我を出すことは許されなかった。
思い返すだけで苦しい、辛い幼少期だった。私はただ、普通の日常を送りたかった。
そして、気づけば十五年もの月日が経ち、私は高校生になろうとしていた。私の将来の糧にするためとは言え、雄英の進学を許してくれた。もしかしたら、私の権利や自我を認めてくれるかもしれないと淡い期待を抱いたりもした。
しかしそれは間違いだった。
そうだ、この人たちはそういう人間だった。
期待した私が馬鹿だったのだ。
私が望むことは何一つ聞き入れようとしないのに、まだ私に都合のいい娘でいることを強要する。
そんな二人の顔を改めて見ると、同年代に比べて深い皺が刻まれており老け込んで見える。やはりカルトに魂を捧げて心身ともに搾り取られているせいだろう。私にも同じことをするように強制さえしなければ同情するのだが。
ALL FOR ONEの何がそんなにあなた達を魅了するのか。そんなものより、今いま旅立つ娘になにか言うことはないのか。
私は新幹線で全寮制の高校に行きます。簡単に帰ってこられる距離じゃないです。
最後の言葉が本当にそれでいいの。
エゴを満たす道具としてではなく、私を一人の人間として見ることはできないの。
だが、その時が訪れることはなかった。
私は適当に返事を返して、定刻通りに到着した新幹線に乗り込み、人混みに体を紛れ込ませた。
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作者名：Larisa | 作成日時：2022年7月29日 21時
