歩む道。5

208 ページ8

やっと頭が事実を受け入れ始めたのか、
視界が滲んでいく。


それが溢れないように
ぐっと唇を噛んだ。


チ「速水、ちょっとでるよ。」


その時後ろからチーフに呼ばれる。


チ「さくら。

私達直帰だから、あとよろしくね。」


それで何かを察知したのか、
さくらさんは私の手をぎゅっと握る。


さ「A、今は聞かない。


でも、
一人で抱えないで。

私はいつでも待ってる。」



「うん。ありがとう。」



その言葉に堪えてた涙がひと粒溢れる。


それを手の甲で拭って
笑顔を作る。



「行ってきます！」


そう言って、
荷物を持ってオフィスをでた。


チーフと乗り込んだのは
道で止めたタクシーだった。


そして、
少し裏通りに入ったところでタクシーを降りる。



「チーフ？ここは？」


チ「飲みたい気分なの。

ちょっと付き合ってよ。」



「…っえ、ちょっ、チーフ！」


戸惑う私を置いて
どんどん歩き出すチーフの背中を追う。



そして入ったのはこじんまりとした居酒屋だった。



チ「かんぱーいっ！」


って気分でもないか…なんて
言いながら、生ビールを一気に煽るチーフ。



チ「さっきの話。…ごめんね。」



「なんでチーフが謝るんですか。

チーフが悪いことなんてひとつもないです。」



むしろ私を庇ってくれた、
そう思う。



チ「あれはさ、
にっしーと実彩子だと思うんだよね。

一番のまずいのは…。」


グループ内恋愛はないって、
さんざん言ってきたのに。


過去とはいえ、
ファンの人を欺いていたというように取られるだろう。


チ「千晃のこともあるしね。」



「私がいなければ。

大事な時に
西島さんやAAAの
足を引っ張るようなこと
なかった。

みんなが積み上げてきたものが、
私のせいで崩れちゃう。」



あまり好きじゃない
苦いビールを一気に流し込む。



「私がここからいなくなれば、

千晃さんのこと以外、
全部解決するんですよね…。」


おかわりください、と頼んて
グラスを空ける。


チ「それは違う！」


チーフはそう言ってくれるけど。


覚悟を決めるときが、
こんなに早くくるなんて、
思わなかった。



「西島さんね、
結婚しようって言ってくれたんです。



もう、それだけで私は…。」




泣きながら笑ったあの時間から、
まだ少ししか経ってないのに。
こんなふうになるなんて。



神様は意地悪だ。


私から大切な人たちをいつも
奪っていく。


ううん、違う。


今度は私がいなくなる番。

209 side Nissy→←207

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す