歩む道。2

93 ページ43

スマホを取り出し、
西島さんの番号を表示する。


時間は午後2時。


スケジュールを思い浮かべてみる。
仕事がうまく行ってれば、移動してる頃。


一言。
家で待ってるって伝えたいし、
声が聞きたい。


でも。



「さっき、退院しました。

家で待ってます。」


とメッセージを入れた。



するとすぐに既読がついて、
着信を知らせる画面にかわる。


思わず、通話をタップしたその瞬間。




・「退院、おめでとう。Aちゃん。」


と後ろから声をかけられる。


聞き覚えのあるその声に、
ビクッとして足を止めた私。


唐沢「せっかく、
楽しくなってきたとこだったのに
入院なんてしちゃうんだもん。

とことん、俺を焦らすよね、Aちゃんは。」



振り向くと、
そこにいたのは唐沢さんだった。



「な…んで？」



唐沢「ここにいるのかってこと？

そんなの。
Aちゃんに会いたいから、でしょ。」



それに、質問の答えももらってないし…、
と笑う唐沢さん。



唐沢「で、答えはでたの？」


写真を消す代わりに、
彼の言う条件をのむか、どうか。


その答えを出していなかったことを
言っているのだろう。


唐沢「答えてもらえないなら、
このまま一緒に来てもらってもいいけどね。」



返事をしない私にじわりじわり、
近づいてくる唐沢さん。


怖い。


だけど手に持ったスマホが、
西島さんと繋がってることを教えてくれる。


私は私のやることを、しなくちゃ。



「お断り…します。」



意外そうな顔を見せて、



唐沢「いいの？

これ、事務所に送っちゃうよ？」



スマホを操作しながらそう言う唐沢さんに、
私は問いかける。



「なんでこんなことするんですか？」



少しの間の後。



唐沢「嫌いだから。」



「え？」



唐沢「西島隆弘が、嫌いだから。」



唐沢さんはそう言った。



「どう…して？」



唐沢「あいつは自分の仕事のために、
他人のプライドを踏みつけるやつだから。」



そういう考え方もあるんだ…と、
ちょっと驚いた。


西島さんは、
西島さんが作りたい世界のために一生懸命だけど、
そうすることによって、
やっぱり不満を持つ人がいる。


でも。


「それは、どうでしょうか？」


私は西島さんが、
誰より自分に厳しいことを知ってる。



人に要求する以上に、
自分へと課すものはもっとシビアだ。

94→←92

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す