歩む道。2

89 side Nissy ページ39

日高が帰った後、
俺はただ、
Aの寝顔を見ていた。


Aの右手に嵌まる指輪に触れながら、
手を握る。



守りたい。



そう思っていたけど、
実際、Aがいないとだめなのは俺の方だ。



仕事と恋愛は別。
どちらかなら、仕事を選ぶ。


それが当たり前だったのに、
どっちも諦めきれない日がくるなんて
思わなかった。




西「A。ごめん。

少しの間、
そばにいてやれないけど。


俺は今、俺がやるべきことをやってくる。」


だけど。
Aが起きたときに、
ちゃんと俺を感じていてほしい。


俺はサイドテーブルに置いてあった
Aの腕時計と自分の腕につけていた時計を
入れ替える。



西「これ、借りてくな。

あと、さっき。
きつい言い方してごめん。

でも、俺はAのこと、
いつでも大切に想ってる。」


Aの手の甲に
キスをして立ち上がった。


Aの目から涙が一筋つたって、
Aが起きてることがわかる。
でも、目を開けないAに背を向けて、


西「いってきます。」


そう言って、部屋を出た。



明け方の空はうっすら白くなり、
肌に感じる空気は
真冬のそれより少し柔らかい。


すっかり散らかった部屋に帰り
少しだけ仮眠をとる。


ちゃんと食べる。
ちゃんと寝る。


いい作品を作るために、
前を向く。


そう気持ちを切り替えて、
仕事に出掛けた。


そして、数日後。


メンバーにも、スタッフさんにも、
迷惑をかけてしまったけど、
なんとか無事にグループの方の
レコーディングを終える。



西「お疲れさまでした！」



すこしだけスッキリした気分で
スタジオを出て、
事務所に向かう。


俺はその日。
村上と会う約束をしていた。


村「西島さん。

お疲れさまです。」


いつもと変わらない様子に
少し驚く。


西「よく俺の前で、平然としてられるな。」


村「なんのことですか？」


西「速水から聞いた。

メールのことも、
階段でのことも。」


ちっとも表情を変えず、
微笑みをうかべてる村上。


村「そうですか…。

てもね、メールだって、
私が実際送ったのは
最初の頃だけ。

速水さんのこと、
気に入らないって思ってる人は
案外たくさんいるんですよ。」


と、言ってのける。



西「それは、お前があんな記事を

流したからだろ？」


そう言った俺に、
変わらず落ち着いた様子の村上が言った。


村「記事は嘘じゃない。

写真が速水さんじゃないだけですよね？」

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