歩む道。2

79 side Nissy ページ29

数日後。


相変わらず目を覚まさないAの病室から
仕事に向かった俺。


今日は
AAAのレコーディング。


いつも通り、
ブースに入って。


いつも通り、
ヘッドホンから聞こえる音。



でも。



歌おうと思って、息をしても、
声が上手くでない。


歌おうとすると、
喉が固まったみたいになる。


何度もリテイクするのに、
全然歌えない。


こんなこと、
初めてで。


熱くもないのに流れる汗。
微かに震える手を握りしめる。



ス「にっしー、ちょっと休憩いれよっか？」



西「…すみません。」



普通に話せるのに、
歌が歌えない。



ブースから出ると、
心配そうな顔で見てる
リーダーと、実彩子。


西「ごめん…。」



何か言いたげな二人の視線を避けるように、
足早にその場をあとにする。






なんで。
どうしよう。

歌えない…。

どうしたら…。


深呼吸してみる。
水を飲んでみる。
ストレッチしてみる。
外の風にあたってみる。


自分に大丈夫と言い聞かせる。



もう一度、
ブースに入る。


大丈夫、できる。
歌える。
いつも通りやるだけ。


でも、やっぱり。


歌えない。



ブースの向こうにいるスタッフさんやメンバーが
心配そうにこっちを見てる。


心配してくれてるだけだと思うのに。


その目も、
手元にあった
歌詞が書いてある紙にさえ、
何もかもが、俺を
責めてるように感じる。


気づいたら
手元にあるものをすべて床に投げつけ
ブースを飛び出した。



「にっしー！」
「西島！」



誰かが呼ぶ声も、
聞こえない。


どうにも表現しようのない気持ちを抱えて、
俺はその場から、






逃げ出した。

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