～小さな世界～【永瀬廉】 (ページ2)

今日:44 hit、昨日:55 hit、合計:550,119 hit

2 ページ2

.

今年で看護師2年目となる私は、

整形外科での勤務にも少しずつ慣れ始めてきた。

まだまだ勉強付けの日々、

夜勤もあってか不規則な生活と

忙しない毎日を送っていた。

髙橋『ねぇ！！A、もぉ俺やだぁ！！』

ナースステーションに戻って来るや否や

ガンッと机の上にカルテを叩き付ける海人は

この科にいる唯一の男性ナース。

「…ふふふ、また無視された？」

髙橋『無視どころじゃない。目も合わせてくんない』

項垂れるように机の上で顔を伏せる海人は

私の同期でもあり、とても心強い存在である。

.

整形外科にやってくる患者様は

わりと若い方が多い印象。

スポーツをやっている人

機械を扱う仕事や現場仕事などで負傷した方。

趣味でツーリングをしていた時に

ダンスをしていた時に

と負傷した理由は人によってそれぞれ。

髙橋『担当、変わってよ。A。』

「…えぇー？」

そして、

隣で意気消沈する海人は

左足、左手首の骨折、顔も擦り傷だらけの

全治3ヶ月と診断された入院患者を受け持っていた。

が、しかし…

髙橋『俺あの人の声まだ聞いた事ないよ。

目も合わせない、ご飯も食べてくれない

薬を飲めと口うるさく言ってるのに飲まない、

窓の向こうをじーーーーーーっと見つめて

もうね…人形。あの人、ただの人形。』

こうして、厄介だ。

と言われてしまう患者様も少なくはない。

.

不幸中の幸い

こんな言葉がある。

身体の一部が不自由になる。

それがどれだけの苦痛で不安なのか

それは本人にしか分からない。

二度と自分の足では歩けない

そう言われてしまった患者様に

不幸中の幸いでしたね。

なんて、

あまりにも無配慮な言葉だと私は思う。

「その人のカルテ、見せて？」

髙橋『…はい、どうぞ。』

力無く渡されたカルテには

【永瀬廉ながせれん】

1999.1.23 21歳

身元保証人不明

身元引受人不明

「口を開いてくれない限り、聞けないね」

髙橋『あー、…保証人ね。その問題もあったわ…』

海人は自分の髪をクシャクシャッとして

分かりやすく顔を歪ませた。

「……」

この方の見えない傷

それを癒えす事なく

私達はまた暗い背中を

見届ける事になってしまうのだろうか。

.