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永瀬『A』
「……」
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永瀬『A?』
「…え?…あ、ごめん、なに?」
永瀬『どうしたん、ボーッとして。』
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つくしの根を土から掘り起こす。
つくしは雑草だから、
放っておくと刈っても刈っても生い茂っちゃうし
根っこは細かくて取り切れないし。
面倒くさいけど、毎年こうして家の畑を
スコップと手作業で掘り起こす。
だからせめて、
つくしを何か料理にでも出来ないのかと
考えたのが、つくしの佃煮だ。
だけど、
「んー、いや。あんなに苦労して掘ったのに
食べれる量はたったのこれだけかぁ、と思って。」
小さな小鉢に入った佃煮が一つ。
労力と見合っていないのが、やっぱり気に食わない。
永瀬『けど、旨いよな。』
「ふふっ、そう。それが悔しいんだよ。」
永瀬『んふふふ、なんやそれ。』
まぁ、
つくしが生えてくる環境を作ったのは私だし。
きっとこれからも
細かくて気に食わないこの作業を、
来年も再来年も…
「……再来年…」
永瀬『ん?』
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再来年も、私はここに…
「…ふふ、なにもない。」
永瀬『………。』
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この春は、
廉と、畑に新しい種を植えた。
桜の花を見に行った。
廉とイネと一緒に日向ぼっこをした。
二人でクレソンを摘みに行った。
廉と新ジャガを使ったパン作りをした。
そして廉とは、沢山の夜を過ごした。
暑苦しいほど引っ付いて離れないように
ギュッと抱き締めながら眠る日もあった。
毎晩、一緒にお風呂に入ろうと廉は私に言った。
だけどそれを全て断ると、
廉は悲しい顔をして、
でも笑っていた。
永瀬『ごちそうさまでした。』
「ごちそうさまでした。」
永瀬『腹いっぱいやしぃ、一緒に風呂入ろっか!』
「入りません。」
このやり取りも、
残りあと数回。
あと何日。
あと…
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作者名:ayu | 作成日時:2020年9月19日 1時