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下を向いたまま
テーブルの椅子にちょこんと座る廉。
私は黙って
机の上にコトッと湯呑みを置いた。
永瀬『…ありがと。』
手を温める為なのか
廉は両手でそれを持ち、
湯呑みの中をじっと眺めている。
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「…風、止んだみたいだね」
永瀬『……。』
いつの間にか
嵐は過ぎ去っていた。
だからか。
家の中がとても静かなのは。
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永瀬『俺のこと嫌いなった?』
「え?」
すると廉は
未だ下を向いたまま、小さく声にした。
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永瀬『ごめん。』
「……。」
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まるで悪い事をしたみたいに
暗い顔をして一切こちらに目線を合わせてくれない。
「ねぇ、廉?」
永瀬『……。』
「こっち見てよ。」
永瀬『……見られへん。』
意地でも顔を上げようとしない。
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「ふふふっ、…なんでよ。こっち見て?」
永瀬『無理。』
私、
こんなに真面目な人。
初めて見たかも。
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「じゃあ、そのままでいいや。」
永瀬『……。』
「嫌いになんて、なってないよ?廉のこと。」
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湯呑みを持つ廉の手が
ピクッと反応する。
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「…キスってさ。」
永瀬『……。』
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「悲しい気持ちになった時にするキスって、
なんか良いよね。絶対にそんな事ないんだけど、
でも、ちょっとだけ分け合えた気にならない?」
共有し合って、それが愛に変わるの。
さっきのキスは、なんかそんな感じだった。
よく分かんないけど。
「…ふふっ、黙ってないでなんとか言って」
永瀬『俺は違う。』
「……?」
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すると
廉はゆっくりと顔を上げて
今度は私を真っ直ぐに見つめて言う。
永瀬『俺、そんな無責任な事をしたつもり無いよ。』
「…ん?」
茶色い瞳は徐々に鋭くなって
言葉に芯を深める。
永瀬『嫌な事を忘れる為にとか、
Aでそれを埋めようとかはマジで一切ない。』
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「……。」
永瀬『……ただ、…Aとしたかっただけです。』
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その夜は
少しだけ夜更かしをした。
お茶を飲みながら
落ち込んだ廉が元どおりになるまで
ゆっくり、時間をかけて。
「明日起きれるかな?」
永瀬『…朝から雪掻き?』
「…ふふ、嫌なの?」
永瀬『んふふふふ、…いや、…頑張る。』
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作者名:ayu | 作成日時:2020年9月15日 10時