ZERO2 ページ3
(「君は才能の塊だよ…零。きっと、磨けばゼロ以上のアイドルになれる…だからこそ、君をそうはやくから外へ放つには惜しい…」)
(「…じっくり時間をかけて、最高のアイドルにしてあげよう。時がくるまでは…ここにいる家族以外の誰にも歌を聞かせてはいけない。」)
(「いいね。」)
あの人…父さんに拾われて、俺は歌を歌った。
その後、告げられた言葉を…忘れたことは一度もないし、その言い付けを破ったこともない。
けれど…
「ファンのみんなのためにも…明日も最高の時間を届けるよ。見ててね…零。」
『…あぁ。』
歯痒さを感じたことがない、と言えば…嘘になる。
輝かしいステージの上に立って、自分を愛してくれる人のために歌う…
それを今、天は成し遂げていて…その様子をテレビで見つめる度、ひどく胸の奥が乾いた。
まるで、旅人が砂漠で水を求め…地に身体を伏せ、空に手を伸ばすように。
それほどまでに、俺は歌を届けることを渇望している。
そう、思わずにはいられない。
俺だって、人を幸せにしたいと願うアイドルで…
海外であの人と暮らした頃には、天同等のレッスンを受講した。
それでも、憧れてやまないステージに立つことは未だ許さない。
時とは、いつやってくるのか…
未だ、九条さんの望む実力へたどり着けない自分への苛立ち。
天を素直に応援したいのに、出来ない悲しみ。
俺を、今支配する感情は決して美しいものじゃない…
醜くて、愚かな…虚しい感情。
そう、わかっているのに…
『…皿は下げておいてくれ。俺が洗っておくから…天は休んでいい…。』
「ありがとう、そうさせてもらうよ。」
今日も俺は、天に偽りの笑みを向ける。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 24人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
