姉様の存在 ページ25
そんなサチさんに、何もないから心配するなという旨を伝えれば、まだ気になる様子ではあったが、あまり気を詰めないようにとだけ言って戻って行った。
変わったものにだけ目を向けていたけれど、こうして変わらないものもある。
サチさんの優しさ。お団子の味。売り物の品。
ここにあるものは、何一つ変わってはいない。
こういうものを、私は多くでも守っていかなければならないのだろう。
俄然やる気になるというものだ。
お団子を頬張りながらそんなことを思っていれば、ふと聞きなれた声が耳に届いた。
「わあ!ここのお店は初めて見るわ!ねえ、伊黒さん。少し入ってみましょうよ!」
「ああ、そうだな。君の好きなようにするといい。」
なんと間が悪いことだろうか。
会いたくもない人に会うことほど、嫌なことはないだろう。
よりにもよって、こんな所で出くわすことになるだなんて……。
まあでも、私は今お面をつけていないし、人から見えにくい位置だから、気づかれる心配もないだろう。
隊服を着ているからとはいえ、せいぜい隊士の一人だとしか思わないだろうし。
少し早くなった鼓動を抑えるように深呼吸を一つして、お団子を口に運んだ。
そうしてしばらく経ったのだが、一向に二人が出ていく気配がない。
というか、甘露寺様がお店の品を全種類頼んだものだから、より時間がかかっているようだった。
凄い食欲だなと思いつつ、その食べっぷりを眺めるサチさんの目がとても嬉しそうで、よほど美味しそうに食べているのだろうなとも思った。
私と接していなければ、二人はやはり優しい人達なのだろう。
その優しさを、少しでも向けてほしいと思っていた。
だけど何故だろうか。今は微塵もそんなことは思わない。ただ姉様の大切な存在だったから、この人達を守るだけ。ただそれだけだ。
姉様という存在がなかったら、私はどうしていたのだろう。
鬼にでもなっていたのだろうか、なんて。
ふっと少し自嘲気味な笑みをこぼして、羽織を脱いで脇に抱え、サチさんの元へと足を向けた。
「あら、もう行くの?」
『はい。これから少し別な用もあるので。』
「そう。また今度いらっしゃいね。」
サチさんはそう言うと、おまけで私の好きなきなこもちを持たせてくれた。
心が温まるのを感じながら頭を下げて、私はその場を軽い足取りであとにした。
帰ったら稽古をして、その後に食べよう。
「今の…もしかして……A…ちゃん…?」
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アマリス(プロフ) - この夢主、魔法少女になったら真っ先に魔女化するな。で、人間体は死んで、魂ごと消えるあれですけど、まあそうなればみんな幸せなんでしょうね。夢主は魂ごと消滅するんですから。本当にそうなったら、どうなるんでしょうね。 (2022年5月22日 20時) (レス) id: 7d0074fb6d (このIDを非表示/違反報告)
ふじか(プロフ) - 更新楽しみに待っています! (2021年9月29日 10時) (レス) id: ae671ca5ff (このIDを非表示/違反報告)
*つむり* - すごく面白いです。小説の書き方とかも、すごく参考になります!続きが気になります……といったらプレッシャーになるかもしれませんが、応援してますので、気を詰めずに自分のペースで頑張ってください! (2021年5月3日 10時) (レス) id: a3e5e92948 (このIDを非表示/違反報告)
リタ - とても面白かったです! (2021年2月25日 19時) (レス) id: 800a931bab (このIDを非表示/違反報告)
ほたる - 下に同じくもっと伸びるべきだと思います!ゆっくりで良いので更新頑張ってください!体調にも気をつけてください! (2021年1月7日 18時) (レス) id: bff8d73ccb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍夜 | 作成日時:2019年11月14日 12時