優しい人なのに ページ14
今なら、Aさんが何故あの時、俺にあんなことを言ったのかわかる。
禰豆子が生きていることは、奇跡のようなものなんだ。
もしあそこで、俺が禰豆子に食べられていたら?
義勇さんが、禰豆子の頸を斬っていたら?
禰豆子が、自我を保てていなかったら?
今ある少しの幸せは、きっと無くなっていただろう。
この幸せが当たり前じゃないことを、Aさんは知っているから、俺にあんなことを言ったんだ。
そしてAさんは、自分とお姉さんは俺達みたいになれなかったから、そういうことを言ったんだと思う。
どれだけAさんは、優しいんだ。
Aさんは涙を拭いながら、辛そうに話を続けてくれる。
『殺すのは、凄く辛かったわ。一緒にいながら、姉様を助けられなかった私自身を恨んだ。
自分の無力さを実感した。
それでも、私は前を向くしかないから、今まで姉様の分も頑張ってるつもりだった。
姉様の変わりになんて、なれるはずもないのに。
だからなのか、前から私のことをよく思ってなかった舞衣は、姉様の頸を斬った私の、ありもしない噂を流し始めたの。
それから私は、皆に嫌われるようになってしまった。』
目を伏せて、悲しそうにそう呟くAさんは、今にも消えてしまいそうだった。
舞衣って…雲柱の人か。確か俺と歳があまり変わらなかったはず。
でも、その人の噂一つで見る目を変えるのは、どうなんだろうか。
話を静かに聞いていた善逸や伊之助からは、怒っている匂いが漂ってくる。
ついに伊之助は、机を叩いて大きな声を上げてしまった。
「それならそうと、あいつらに噂は全部デタラメだって言えばいいだろ!!なんで否定しねえんだよ!」
『…姉様を殺した場にいたのは、私と舞衣だけ。だから他の誰も、本当のことなんて分からない。
舞衣は私と違って人当たりがいいから、信用を得るのは簡単なこと。
それにこんな、いかにも怪しいお面付けてるやつの話なんて、誰も信じてはくれないでしょう?』
そう言って、Aさんは自嘲気味に笑った。
その笑顔があまりにも悲しくて、俺はまた心が締め付けられる。
こんなにも優しい人なのに、どうして誰も信じてあげないんだ。
こんなにも、温かい人なのに。
「そ、それなら!俺達がAさんはそんな人じゃないって、嘘だって皆に伝えますよ!」
『駄目。』
「え…。」
『それは駄目よ、善逸。』
立ち上がって言う善逸に、Aさんは静かにそう告げた。
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アマリス(プロフ) - この夢主、魔法少女になったら真っ先に魔女化するな。で、人間体は死んで、魂ごと消えるあれですけど、まあそうなればみんな幸せなんでしょうね。夢主は魂ごと消滅するんですから。本当にそうなったら、どうなるんでしょうね。 (2022年5月22日 20時) (レス) id: 7d0074fb6d (このIDを非表示/違反報告)
ふじか(プロフ) - 更新楽しみに待っています! (2021年9月29日 10時) (レス) id: ae671ca5ff (このIDを非表示/違反報告)
*つむり* - すごく面白いです。小説の書き方とかも、すごく参考になります!続きが気になります……といったらプレッシャーになるかもしれませんが、応援してますので、気を詰めずに自分のペースで頑張ってください! (2021年5月3日 10時) (レス) id: a3e5e92948 (このIDを非表示/違反報告)
リタ - とても面白かったです! (2021年2月25日 19時) (レス) id: 800a931bab (このIDを非表示/違反報告)
ほたる - 下に同じくもっと伸びるべきだと思います!ゆっくりで良いので更新頑張ってください!体調にも気をつけてください! (2021年1月7日 18時) (レス) id: bff8d73ccb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍夜 | 作成日時:2019年11月14日 12時