オタクも磨けば天才にってね【Dr.STONE】

十七石 ページ19

見たところ、大樹はまだ戻ってきていない。こんな時に、タイミングの悪い男だ。


……私が出ていけば、ある程度あの場はかき乱せるかもしれない。

私達の中では、確実にそういった運動能力には長けている方なわけだし。


だが、千空は私の存在が知られていないからこそ、優位に立てるらしかった。

だから、安易に飛び出していくのは得策とは言えない。


千空に何か考えがあるのなら、それに従うまでだとは思う。思うんだけど＿＿


そこまで考えた時、杠の髪の毛を司が切り落とした。

髪は女の子の命だって教わらなかったのか、あいつ。


思わず動き出しそうになったが、踏みとどまってその場を見守る。

それがどんなに歯痒いことか。助けたいのに、助けにいけない。相手が馬鹿げた事を言っているのに、それを訂正しに行けすらしない。


私が、誰でも救える正義のヒーローだったなら、よかったのに。


そんな馬鹿げた事を考えている間も、淡々と事は進んでいく。


｢言っちゃダメだよ、千空くん。復活液のレシピ聞き出さないうちは、司くんは千空くんのこと殺せないんだから。

私は全然大丈夫。でも千空くんだけは、みんなの未来のために、絶対死んじゃダメだから…！｣


……君は強いね、杠。でも、千空はきっと君の望む事はしないよ。

私これでも、あいつのことは一番よく知ってるつもりだから、分かるんだ。


千空は、誰の命も天秤にかけたりはしないんだよ。


案の定千空は、復活液のレシピを司に教えてしまった。


｢ありがとう、千空。これで君を、生かしておく理由がなくなってしまった。…君を生かしておけば、うん。必ず文明を発展させてしまう。

それをしないと、約束してくれないか。｣

｢ククク、何言ってやがる。そんな約束なんざ適当に…｣

｢いや。君は嘘をつかない。科学にだけは。今ここで誓ってくれないか。人類の科学文明をここで止めると。

そうすれば俺は＿＿＿千空、君を殺さなくてすむんだ。｣


……そんなの、答えは分かっているくせに。わざわざそんなことを言ってくるなんて、どんな神経してるんだよ。


今にも飛び出していきたい。助けにいきたい。だけど、それでもし千空の負担を増やすだけだったら？

いくら考えても堂々巡りで、いい案なんて一つも浮かびやしない。


目の前で、大切な人の命が散ろうとしているのに。


｢千空。できれば殺したくない。今ここで誓ってくれないか。科学を捨てると＿＿＿｣




｢無理だな、それだけは。｣

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