海水に溺れて【YouTuber中短編集】 (ページ36)

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ゆめまる【リン様リクエスト】ページ36

片想いなんて恋愛の典型的な考えだ。両想いなんてまさにそうだろう。
じゃあ両片想いは？

『はぁぁぁ』

女ひとりで小さい居酒屋とか、終わってるぜ、ほんと。

「２９回目の溜め息だねえ」
『数えてたの…』
「何かあったの？」
『何でもないけど…』

相変わらず店長はニコニコしてる。カウンターに頬杖をついていて、その左手にはキラリと指輪が光った。

『…店長、結婚するの？』
「そーだよ」
『あれ、年同じだよね』
「うん」
『…置いてかれた気分』

そう言うと、大声で笑った。人が多くてガヤガヤしているからか視線は集まらなかった。

「Aちゃんも早く片想いしてる人に告白しないと」
『えっ、なんでそれを！？』
「この前酔った勢いで全部話してたよ」

「大丈夫、僕しか知らないよ」とニヤニヤする店長。私の顔は真っ赤だろう。

『だめだよ……ゆめくんには好きな人がいるんだもん…告白したって、振られるだけ…』
「一か八かで告白してみたら？」
『無理無理無理無理！絶対に無理！』
「潔いなあ。意外とチキンなんだ」
『その通りです…』

店長は話している途中に注文が入った料理を作っていた。

「でもさぁ、後悔すると結構心に残るもんなんだよ。僕もね、学生時代に好きな人がいてね。その人は誰とも付き合ってはいなかったんだけど、告白する勇気はなくて。そのまま月火が流れて卒業間際、その子はクラスメイトに告白されてたんだ」
『ずっと好きだったの？』
「もちろん！こじらせるくらいね(笑)まあ今は結婚するから、好きではないけど」

だからね、と店長は続ける。

「後悔する前に、当たって砕けちゃった方がスッキリするよ」
『……そうだね』

机に顔を伏せると、コップの中の氷がからんと音をたてた。