小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ7)

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『……』

早々と診察室を追い出されるようにして出ると、診察室のすぐ脇のイスで弟が静かに寝ていた。

ため息をつきながら俺も弟の隣に座る。

ごめんな…、こんな時間に外連れ出して。中学生、疲れるのにな…。

“可能性”とは言っていたけど…、実際のところ…。

まだ自分の中でも処理しきれてないのに、弟にも、親にも言うかどうか考えろ、なんて…。

これからどうしたらいいんだろ。

ネットで色々調べてみると、並ぶ“５年生存率”、“ステージ”、“死亡”の文字。

“死亡”なんて、見たくもなかった…。

まだ脳腫瘍ですって診断されたわけでもないのに、見るだけで心がとてつもなく痛くなる。

『はぁ…』

もうやめやめ。こんなことしたところで、なんの意味もないし、そもそも可能性ってだけで、悪性じゃないかもしれないし、それに見間違いだったってだけかもしれないし。

明日も俺は学校あるし、それに“明日は絶対来いよ！”なんて言われちゃったから何が何でも行かないと。

最後に弟起こして、親の顔でも見て帰ろうとイスから立ち上がる。

でも、歩こうとしたタイミングで足が動かなくなった。

自分で自分の心を騙そうとしたって、そううまくはいかないもんだな(笑)

怖いものは怖い。今すぐ誰かに助けてほしいってそう願うばかり。

ママが一番苦しんでるかもしれないのに、俺がこんなことになってたら笑われちゃうよ。

『はぁ……ｸﾞｽｯ…』

俺はただ、イスに顔を押し付けて、誰にも見られないように、聞こえないように声を殺して泣くことしかできなかった。

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翌日、ぼんやりと眺めていた授業を途中で抜け出して、俺は病院に来た。

帰るときに、目が小学校で飼っていたうさぎ並みに赤くなっていたのを友達に少し心配されたけど。

昨日も来た診察室に、俺と弟、そして＿＿ママも。

また昨日と同じ変わらない口調で、淡々と検査の中身を話していく医者

弟が隣でうんうん頷きながら聞いているのをよそに、話長いなーなんて思いながらぼーっと眺める。

ふいに、弟に肩を叩かれて、前を向き直した。

医師『そして、昨日の検査なんですが…』

医者が検査の結果であろう紙をめくってこちらを見る。

どうせ、何も異常見つかりませんでしたーとかでしょ？

ママは昔っから病気なんてほとんどなったことないんだから。

医師『悪性の転移性脳腫瘍でした』