小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ23)

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寝る直前、夢と現実の狭間くらいでなぜか大学生の時のある出来事が頭の片隅に浮かんだ。

あれは確か大学一年か二年のとき。

確か色々と勉強詰め込んでたときで、講義もいつもより多くて、それに加えて実習もあったからその日はかなり疲れてたんだけど。

いざ家のアパートに帰ったら冷蔵庫にはカニカマしかなかった。

そう、カニカマ、それだけ。

カニアレルギーのくせにカニカマが買ってあって、しかも夕食としてありつけそうなものそれしかなかったから、仕方なくそれを口にした。

カニ“風味”かまぼこだから、カニじゃない。

カニによせた全くの別物、って言い聞かせて食べたんだけど、

普通にアレルギー反応が起こった。

なんでだろう、アレルギーっていってもめちゃくちゃひどいわけじゃないし、４パックぐらい一気に食べたからかな。

とにかく、カニ風味のくせに、カニエキスが入っていたらしくそれがダメだったらしい。

どこが風味や！これじゃカニだろ！って思ったんだけど、症状が出てしまったからにはもう遅い。

突然、部屋の電気を真っ暗に消されたような、急に暗闇に放り投げられたようなそんな視界で、

物音1つ聞こえない空間に自分の喘鳴だけが聞こえて、息がだんだんと出来なくなっていく……

今まででダントツに怖かった瞬間。

あいにく一人暮らしで、誰も気づいてくれる人はいない。

アレルギー関連には今までかなり気をつけてたから、あんまりこういう経験をしたことがなくて、死ぬんじゃないか、自分どうなっちゃうんだろう、みたいなそんな思考が頭の中をぐるぐるしてた。

顔に何か硬いものが当たって、ようやく自分が倒れたんだと気づいた頃にはもう、意識はなかったと思う。

気がついたら、病院にいた。

そこで、白い壁に囲まれた部屋のベッド脇にはさっきみたいに、ジンが何かを読んでた。

一瞬見ただけで読む気失せるだろレベルに分厚い本をじっと静かに読んでいたジンに、

『なに読んでるの？』

すごく集中していたのか、返すのがめんどくさかったのか、返信は3分くらい遅れて返ってきた。

神『ゼロから始めるオランダ語Part1』

???

は???

困惑している俺をよそに、“これPart12まであるんだよね。今日中に読み切れるかな”と続けた。

今ジンが手に持ってるような本があと12冊もあるのも驚きだけど、第二外国語に選ぶ言葉でも聞いたことないよ、オランダ語なんて。