小児科医の日課〜研修医、平野紫耀の経験記録〜【伍】 (ページ16)

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日森『はい』

手に取っていたコートを着て、裸足のままサンダルを履いて車の鍵とスマホ片手に玄関のドアを閉めた。

エアコンが効いて暖かかった室内から一変、一気に肺が凍りそうなほど冷たい空気が息を吸い込む度に入ってくる。

玉｢体調に変化があったのはいつ？｣

日森『他の看護師が消灯の時に見回りに行った時です。最初は普通だったみたいなんですが、少し微熱っぽくて、だんだん息もあがって苦しみ出して、それで胸を押さえてそのまま意識が__』

微熱っぽかったのはひとまず置いといて、胸を押さえてとなると…何かしらのショックか何かか。

息も白くなる1月の夜中、階段を駆け下りてスピーカーをタップし、車に乗り込んだ。

当然、手袋、マフラーなんて防寒対策はしてる訳がないので、ハンドルを握る手は小刻みに震える。

玉｢それで、心停止したのはどれくらい前？心マは？｣

日森『心停止をしたのは約30分ほど前でちょうど一回目の連絡を差し上げた頃です。意識を失ったのと同時に当直の神代先生を呼んで、そこで心マを行って心拍は再開しました』

心拍は再開してるんだ…よかった。

人間は一旦心臓が止まると、止まっている間は一切の酸素の供給がなくなって、供給が無くなっている時間が長ければ長いほど、脳へのダメージが変わってくる。

そこで心臓マッサージたる画期的な方法で、胸骨が折れようと砕けようとどっかに刺さろうとも、人の手で心臓を強制的に動かし、脳に酸素を送ろうという人間のアイデア。

どのくらいの時間を空けて心拍、つまり心臓の動きが再開したかにもよるけど、心拍が再開しているのであれば、脳への深刻なダメージは心配しなくてよさそう。

前言撤回、心配しよう。

人通りどころか車通りすら少ない深夜0時の道路をスピード違反ギリギリをせめて飛ばしてきたお陰か、10分も経たずに病院の駐車場に着いた。

玉｢ちょうど着いた。今からICU行く。昇圧剤入れて、輸液追加して｣

日森『分かりました』

電話の向こう側で、人が慌ただしく動き回るような音が聞こえて、プツリと音が途切れた。

電話をかけてくれたのが、日森で良かった。
そう思った。

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玉｢ごめん、遅れました。
バイタルどんな感じ？｣

扉の前で白衣に着替え、室内に1歩足を踏み入れると消毒液のなんとも言えない鼻の奥を刺激する匂いが漂ってきた。