彼女はまるで,木蘭のようでした。2

番外編〜三者一様〜5 ページ7

「……テメェ等ァ…俺に運転押し付けた上にAさんの両隣陣取りやがってェ…！」

助手席があんだろォが！
なんでわざわざ後部座席に３人座る必要がある！？

狭い車内にぐわんぐわんと,実弥の声が反響した。

発車させずにかれこれ１０分はこれが続いている。

「……うるさいぞ,不死川」
「貴様は運転に専念しろ。そして冨岡,助手席へ行け」
「断る」
「狭い上に邪魔だ。遅れて来た分際で反論するな」
「俺は遅れていない」


義勇が到着したのはAが電話をかけてから直ぐ。

黒いパーカーにジーンズという格好だった。

電話に出た時には既に大方の支度は出来ていたのだが,服装に悩んでいたらしい。

そこで,丁度電話をくれたAに好きな色を聞いたという。

着いた瞬間に,Aから話を聞き出していた実弥と小芭内から鉄拳が飛んだが。


「Aさんを待たせた時点で大遅刻だ。つべこべ言わずにさっさと行け」
『あの,でしたら私が移動しましょうか？狭いのなら身長的にもそれが一番良いかと思いますし』

小芭内,162cm。
義勇,176cm。
A,183cm。

実弥を合わせても圧倒的にAの身長が一番高い。

「「……………」」

何故身長がAより低いのか。
今の発言に悪意は全く無いが,刺さるものはある。

「そうしましょう。助手席の方が足元も広いですし」

ここぞと言わんばかりに,実弥が運転席から勝ち誇った様な顔を出す。



Aの両隣に陣取る2人は一瞬だけ鋭い視線を合わせると,凄まじい速さで液晶画面に指を滑らせ始めた。


おばない行け
冨岡 義勇伊黒が行け
おばない行け
冨岡 義勇Aさんの隣が良い
おばない行け
冨岡 義勇不死川の隣よりAさんが良い
おばないいいから行け
冨岡 義勇絶対に嫌だ
おばない美味い鮭大根の店を教えてやる
冨岡 義勇帰りは俺だからな

義勇が好物を餌に折れ,勝敗が決まった。



「……俺が助手席に行く」

その言葉に,先程の勝ち誇った顔から一変。
こめかみに血管を浮かび上がらせる実弥。

「なんでよりによって冨岡なんだよ！？」
「俺だって(Aさんの隣が良いから)嫌だ」

ぶちりと,血管がはち切れる音がするも,

「不死川,観念して植物園へ向かえ。Aさんのスケッチする時間が減るだろう」



小芭内の言葉に大きな深呼吸をして,ハンドルを握った。

続く  (更新停止中) お気に入り登録で更新通知を受け取ろう

←番外編〜三者一様〜4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す