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三話目 ページ3

「だから嫌なんだ。すぐに争いを持ち出してくるものは。体の奥にある恐怖心とかを抉り出して、他人を可笑しくさせる。その証拠が、俺じゃないか」

そう言い、精一杯近衛兵達を睨みつける子の姿はどこか可愛らしく思えるが、放った言葉の意味を考えるとそうも思えない。近衛兵達は槍を下げることはしなかったが、槍を構える腕に覇気は無かった。

「槍を下ろせ」

そう命じた皇帝の声は、とても冷淡なものであった。しかし、皇帝は憤怒しているわけではなかった。

皇帝は子へと二、三歩近寄り、少し屈んで語りかけた。

「すまない。私はこんな齢だが皇帝という立場にいるんだ。だからと言って、私はお前に敬ってほしいというのではない。そうされたら、私は困ってしまう。
……お前、というのは感じが悪いな。名は何と言う?」

子はそう問われ、暗い顔をして沈黙を守った。そして、不器用な声で、場都合が悪そうに言った。

「もう、忘れてしまった」

それを聞くと、今度は皇帝が沈黙を守った。しかしそれは、気まずくて何も言えない、というよりかは、何かを考え込んでいるようであった。長い静寂を破り、皇帝はふと口を開いた。

「じゃあ、私が新たに名を授けよう。ビアリーという名だ。少し黄色がかったその白い髪に、よく似合う名だと思う。
……ああ、そうだ。私は提案しに来たのだ。ビアリー、私のところに来ないか?」

子は、朧げなその瞳を見開いた。だが、そこに歓喜の表情は無かった。かと言って、悲哀を浮かべているのでもなかった。ただ淡々と、困惑しているようだった。目の前に突如現れた不思議な人物と、不思議な言葉に。

やがて困惑は緩和したらしく、子は(おもむろ)に言った。

「嫌だ。まだここで、独りでうなされていたい」

その言葉に、皇帝は少し驚いた。しかし、決して感情的になることはなく、穏やかな笑顔を見せた。まるで、反抗期の弟を見守るように。それを見て、子は訳がわからないといった様子で、言葉を続けた。

「それに、俺がお前のところに行って、一体何がある?利益、というやつか。俺を実験体にでもするのか?憂さ晴らしに殴るのか?どこかに売り払うのか?そんなのは、もう嫌だ」

子は、小さい拳を懸命に握りしめていた。打って変わって脱力気味のその目は、溜め息などよりもずっとこの疲労を見せた。

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初見朧(プロフ) - ああああああああ本当だああああ!即刻直してきます!こちらこそ、いつも素晴らしい小説をありがとう! (2020年8月14日 10時) (レス) id: 539b906aee (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - そうかそうか、皇帝にもそんなことがあったのだなあ。あ、十話目の「肯定にする他ない」って皇帝じゃないかな? そして後書きにより分かる題名の意味いいいい!!もう最っ高だね。凄くスッキリした。 更新お疲れ様でした!面白い小説をありがとう! (2020年8月14日 0時) (レス) id: 8682462ce1 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - ぬおおおおおおおお終わっちゃったああああああ!!?欲を言えばもっと見たかったのだけど、初見朧らしい終わり方だったので良かったと思います!幸せの定義を物語のテーマに組み込んだところ、なるほどなあと考えさせられました。あと純粋に面白い。 (2020年8月14日 0時) (レス) id: 8682462ce1 (このIDを非表示/違反報告)
初見朧(プロフ) - 杳覇さん» ありがとう!これは気に入ってる作品の一つなので、自信があります!(何の自信や)ビアリーたん……wそうね、思いっきりショタなんでね(急に冷静になるな)杳覇ちゃんも頑張ってー! (2020年8月11日 16時) (レス) id: 539b906aee (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - どぅおおおおお既にめちゃくちゃ面白い!!こっちもいいなオイ!!ビアリーたんが可愛くて好きよ。初見朧のペースで更新頑張れ! (2020年8月11日 15時) (レス) id: 37d55cd9aa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:初見朧 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ayana170211/  
作成日時:2020年8月11日 15時

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