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159.咲かずに消えた言の葉 ページ9

 胸を急かすような花火の音。

 絶え間なく咲く夜の花。



「…杏寿郎さん?」


 俺はAの頬に触れようと右手を伸ばした。


 どちらとも言葉はなく、ただ黙って見つめ合う。




 俺の手がもうすぐ彼女の頬に触れる。


 触れたい。とても。


 いつだって触れていたい。


 この白く滑らかな肌に口づけをしたい。


 抱きしめたい。





 しかし、守ると決めた。


 彼女の未来を。永く続く幸せを。

 



 伸びた手は空を切り、静かに下ろされた。



「…どうかしましたか?」



 二人の静寂の間を花火の音が響き渡る。



「…いや。」



 このまま見つめていては心が揺らいでしまう。

 俺は腕を組み、また花火を見上げた。




「君と花火が見れて良かった。

 一生忘れることのない思い出になった。」



 今日という日は俺の宝物だ。

 この先、君以外を愛すことはないんだ。

 君が最初で最後。




「私もですよ。今日はありがとうございます。」



 夏から秋へと変わる少し涼しげな風が髪を揺する。



 ああ。俺は君の幸せを願い、決心をしたというのに、

 こんな素敵な時間を過ごしたばかりに、

 また欲が出てしまいそうになる。


 Aの手を繋いでいたくなってしまう。


 花火の打ち上がる音で言葉は届くか、届かないか…


 心から思っていること。

 これだけはこの先もずっと変わらない。


 届いて欲しい…


 俺は花火を見たまま、Aに告げた。





「………」







 その言葉は花火の音に打ち消されてしまい、


 彼女には届かなかった。




「…何と?」





 Aは首を傾げ、俺の浴衣の袖を掴んで問う。




 これで良い。

 これで良かったのだ。




 自分のわがままが届かなかったことに少し安堵した。




 Aのことが誰よりも大切だから、

 その隣が俺でなくとも、

 君が世界のどこかで笑っていてくれればそれでいい。



 鬼とは関係のない世界で、君はただ幸せに…






 Aの方を向くと、真剣な顔で、


 今度はしっかりと彼女に届くようにと別の言葉を口にした。








「…別れてほしい。」

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年9月6日 22時

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