検索窓
今日:3 hit、昨日:7 hit、合計:15,769 hit

158.紺碧に咲く花 ページ8

 それから数日が経ち、

 とうとう花火大会の日がやってきた。


 出かける準備を終えると、

 自室で支度を整えているAに襖越しに声をかけた。


「A、支度できたら外に出ておいで。」


「あ、はいっ!もう少しだけ待ってください!」


「はははっ!焦らなくて大丈夫だ!」


 
 先に外へ出ておもむろに空を見上げると、

 茜から紺碧に色を変えていた。


 もう迷わない。




 しばらくすると、支度を終えたAが

 玄関から慌てて出てきて、

 勢い余って転びそうになったので抱き止めた。


「危ない!!…大丈夫か?

 君って人は本当におっちょこちょいだな。」



「…すみません。」



 日が傾き、薄暗くなった世界。

 街灯の灯りが優しく俺たちを照らしている。


 彼女の鼓動が聞こえる。



 そっと身体を離すと、Aを自身の瞳に映した。


 縦縞の白と薄緑の地に丸い赤椿の柄の浴衣。

 肌の白い彼女によく似合っている。


 綺麗だ。本当に…

 
 一瞬ぼやけた視界に驚き、慌てて笑顔を繕う。


「とてもよく似合っている。美しいな。」


 Aは顔を赤くして俯いた。


「…なぜ下を向く?

 もっと顔を見せてはくれないのか?」


「…照れ臭いです。」


 ああ、ほら。


「君のそういうところも…愛おしいんだ。」
 

 俺は彼女の手を引くと静かに歩き出した。


 小さくて柔らかな手。

 ぎゅっと握ると、握り返してくれる。


 そのままAを蕎麦屋の店主が教えてくれた

 花火がよく見える絶好の場所へと連れ出した。


 そこは花火大会の会場から近い土手沿いで、

 人はほとんどいない。


 足を止めると音が聞こえて、

 空を見上げると花火が上がり始めた。


 夏の夜空に大きく咲いた花はパッと煌めいて

 儚くもすぐに消えていく。

 
 花火が打ち上がる度にドンっという音が心臓に響いた。



「…綺麗ですね。」


「本当だな。」


「こんな穴場よく見つけましたね。」


「良いところだろう?

 行きつけの蕎麦屋の店主に教えてもらったんだ。」


 赤、黄、緑と色とりどりの光が

 紺碧の夜空を彩る。

 
 幸せだ。

 恋い慕う人がそばにいて、共に花火を見ている。

 
「A…」


 花火の打ち上がる音は声を隠してしまいそうで…


「…はい?」


 俺は彼女に身体を向けた。

 瞳に映るAは花火よりもずっと、ずっと、美しくて、

 胸がぎゅっと苦しくなった。

159.咲かずに消えた言の葉→←157.行きつけの蕎麦屋



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
61人がお気に入り
設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年9月6日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。