アヤメのハンカチ【煉獄杏寿郎】

13.燃える思い ページ13

Aはハンカチを手に取ると、


　ありがとうございますと小さな声で言い、


　自身の手の中のハンカチを見つめる。



　心臓の音が耳元で聞こえるようで、


　落ち着かせようとすればするほどにうるさくなる。


　すると、おもむろにAが口を開いた。





「このハンカチ…アヤメの刺繍ですね。とても綺麗。」



　そうか…


　先程までうるさかった心臓は


　まるでなかったかのように静まり返る。



　そうなのか…


　千切れてしまった綱はもうどうしようもない。


　これが答えなのだ。






　俺はAに優しく微笑みかけた。



「昔、大切な人に貰ったものでな。

　アヤメは俺の誕生花らしく、刺繍を入れてくれた。」



　君の手の中のハンカチに目を向ける。


　すると、不意にAが俺に告げた。


「…燃える思い」


「燃える思い…？」


　脈絡のない言葉に俺は首を傾げる。



「アヤメの花言葉です。煉獄先生にぴったりですね！」



　花言葉…？



「…あ！でも煉獄先生自身にもぴったりですが、

　贈られた方からの

　メッセージでもあるのかもしれませんね！

　とても素敵です。」



　贈られた方からのメッセージ…？


　燃える思い…？







　ー"これは？"




　 "私からのささやかな贈り物です" ー





　ああ、そうだったんだな。


　君はあの時も変わらずに…



　視界がぼやけて思わず涙がこぼれ落ちる。




「…あ、ごめんなさい。

　良かれと思った言葉で

　先生を傷つけてしまったかもしれません。ごめんなさ…」






「いや、違うんだ。嬉しくて…嬉しくてつい…。


　ありがとう。A…。」

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