【歌い手】一目惚れのこじらせ｡【まふまふ】 (ページ10)

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「まふくんも消えたいの？」

凛とした声が聞こえた。

今まで机に突っ伏していた体を咄嗟に起こす。

『な、んで』

どうして僕はAに話しかけられているんだろう。

今は確か放課後のはずなのに

(Aから話しかけてきてくれた)

(いつもならすぐに帰るAがどうしてここに？)

(また忘れ物したのかな？)

(＿＿さっき呟いたのが聞こえた？)

思考がぐるぐる回る。嬉び、驚き、疑問、色んな感情が僕の脳内で駆け巡る。

「…さっきまで先生に呼び出されてて、今から帰るとこなの」

僕の思っていたことを察したのかAはそう言った。

「私の鞄、置いてあるでしょ？」そういった彼女の目線の先には、机の横に掛かってあるリュックがある。

どうして気が付かなかったんだろう

焦っているはずなのに意外にも頭の中は冷静だった。

「…まふくんも消えたい？」

話を戻すかのように僕を見つめ、Aはそう言った。

『僕も、って…Aは消えたいって思ってるの？』

「最近はあまり思わないよ。でも少しだけ。」

『そう、なんだ』

「…消えて、もう2度とここには来ないの」

Aが言う〝ここ〟って、たぶん〝この世界には〟って意味なんだと思う。

「ここは辛くて息が苦しいから消えたいの」

『くる、しい？』

「うん。でもね、少し前まではいつ消えようかな、とかいろんなこと考えてたんだけど」

「今は、あんまり消えたくないんだ」
そう下を向いて微笑んだ彼女から、目が離せなかった。

いや、見とれていた。