【歌い手】一目惚れのこじらせ｡【まふまふ】 (ページ30)

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『…ここです、どうぞ』

『先にどうぞ』と玄関を開けた。

やっぱり緊張するのか、「…お邪魔します」とぎこちなく入っていった。

そのままリビングに案内して、僕はキッチンに行き家に唯一あったココアを用意する

彼女にホットココアを出すと「ありがとうございます」と言ってひとくち飲み、寒かったのかマグカップを持ってじっとしていた。

『あ、救急箱持ってきますね。コート、ハンガーにかけときます…えっと、名前って』

「ありがとうございます……えっとユキ、です。名前」

耳に髪を掛ける。

『ユキさん…じゃあ少し待ってて下さい』

僕は救急箱と濡れたタオルを用意しに家の中を駆け回った。

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『お待たせしました。』

机の上に持ってきたものを広げる。

「ごめんなさい、気にかけてもらって」

『い、いえ！僕が勝手にしてる事なので…気にしないで下さい。

じゃあ包帯、取りますね』

「はい」

くるくると適当に巻かれたであろう包帯を全部とっていく。

『…痛かったら言って下さいね』

「…はい」

ぬるま湯で濡らしたタオルで足を拭いていき、ひとつひとつ手当てをしていった。

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ほぼ怪我の手当てが終わり、ユキさんが着ている長袖の下が気になったけど、腕を出すのは嫌がっていたので流石に折れた。

片付けている時やっぱり気になったので理由を聞いてみた。

『あの…気になっちゃって。なんでそんなに傷だらけだったんですか？』

「……元カレとばったり会って、口論になってそれで…って感じです。元々向こうは別れるのに納得してなかったから…途中で逃げてきたのでもう大丈夫だと思います」

『…すみません、そんなことがあったんですね』

「あ、いや…あの人、女の人といたのに私を見たら女の人放ってこっちにきたから…たぶん思い出したんじゃないかな、私がいたから」

「逃げてきたから家もバレてないし、大丈夫ですよ」そう言いながらユキさんは髪を耳に掛けながら、ぬるくなっているであろうココアをひとくち飲んだ。

まあ確かにユキさんは綺麗、だと思う。

少しグレーがかった長い髪、赤の口紅がよく似合う人だ。

っていう何考えてんの僕！

『…それじゃあ、救急箱片付けてきますね』
そう言って、僕はそそくさと彼女から離れた。