第百六十六訓:二本差し-記憶- ページ25
「あらあら。今日もまた一段とボコボコにされたのね」
「‥‥うっせぇ」
くすくすと笑うA[師]に、機嫌が急降下。
そんな俺の感情の機微を察知したのか「ごめんごめん」と謝ってきた。
その表情は、謝罪の色を全く見せていなかったが。
庭先で鳴く烏の声がやけにはっきりと聞こえた。
「なあ‥
“二本差し”って何だ」
テキパキと手当をするAの手が、一瞬止まった。
ふわりと微笑み「どうしてまたそんな事を」とその先を促す。
「今日の授業で松陽[アイツ]がいってた」
「貴方が寝ずにあの人の話を聞いているだなんて、珍しい事もあるのね」
「‥お前なにげに失礼だぞ」
消毒液に浸した脱脂綿を頬に添える。
傷口がヒリヒリとして地味に痛い。
顔を顰めた俺に「少し シミちゃったわね」と苦笑すると、松陽から貰った剣を手に取り、淡く微笑んだ。
「昔はね、侍は刀と脇差、両刀を差していたの。その二本の刀を差してこそ、一人前の武士の証――――彼等の誇りだった」
「‥なんで、過去形?」
「人も魂[こころ]も、時と共に移ろいでいくものだから。
脇差[護るべき信念]は消え、刀[身を護るだけの凶器]だけが彷徨う事となった」
一通りの処置を終え、刀を置くと、Aは隣に座った。
Aから白梅の匂いがした。
「ねえ銀時。あなたはどんな侍になりたいの?」
声のする方に顔を向けると、自分よりも紅い瞳と交わる。
「わかんねェ」と短く返すと、「そう」と切り返された。
Aの目線が庭先に戻る。
緩やかに細まった目。
その先には、塾生達[アイツら]と戯れる松陽の姿があった。
「Aって本当に松陽の事 好きだよな」
「‥‥そう、みえる?」
「おう。なんか“好き”ってのが滲み出てる」
「何その言い方」
呆れ顔で笑うA。
そんなAは「そうねえ」と呟くと、愁いを帯びた眼差しを松陽へと向けた。
「どんなあの人でも愛する――――そう、決めたから」
ごくり、小さく息をのむ。
夕陽に照らされたAの面は、綺麗で、泣き出しそうで、いろんな感情[もん]が混ざり合っていたから。
名を呼ぶ事すらできず、ただこの目にAの面を映す事しかできなかった。
「ねえ銀時」と揺らめく瞳[め]で俺を見つめるA。
目を逸らす事が、できなかった。
「迷って、悩んで。あなたなりの侍を見つければいい。
でも、いつか必ず教えてね。
あなたの掲げる侍を。
あなたの――――志を」
そう言って微笑んだ師の表情[かお]は、どこか寂しげだった。
第百六十七訓 二本差し-決意-→←第百六十五訓 手を借りるのは肉球のある獣にしておけ
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椿(プロフ) - カフンショウさん» ご質問ありがとうございます!今のヒロインちゃんは無表情で何も喋りません。ただ、虚様とは何百年も一緒にい続けたので、目を見ると何を考えてるかぐらいは解ります。なので(?)彼があんな事やこんな事、そんな事まで強要しても従順に従っちゃいます← (2018年8月29日 23時) (レス) id: 29cb1b4279 (このIDを非表示/違反報告)
カフンショウ(プロフ) - こんにちは、いつも見てます。1つ質問です。主人公は今虚様のところにいますが、喋ったりしているのですか?あと、表情はどうなっているのですか!教えてください。先生!← (2018年8月29日 22時) (レス) id: ded7f4dd14 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - ミナト班 (´ω`*)さん» ありがとうございます!虚様との共闘…頑張ります。。堕ちちゃいましたが、彼女なりに闇の中から抗いますので、どうぞお楽しみに! (2018年8月11日 11時) (レス) id: f218e1e191 (このIDを非表示/違反報告)
ミナト班 (´ω`*)(プロフ) - いつも、楽しく拝見させて頂いております。更新頑張ってください!主人公闇堕ち良いですね!!虚と主人公の初めての共同作業(?)楽しみにしてます! (2018年8月11日 1時) (レス) id: c1de0d9e94 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - ぱぴこさん» ありがとうございます!そう言って貰えると嬉しいです(o^^o) 細々と更新していきますので、覗きに来てやってください(笑) (2018年8月7日 11時) (レス) id: f218e1e191 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿 | 作成日時:2018年8月4日 10時