【銀魂】花一匁 肆

第百六十四訓　少年は吠える、天を求めて ページ23

――――ザザッ

徐々に大きくなる足音に、重たい瞼を開き、天を睨みつける。

無慈悲な天[A]もまた、俺を見下ろしていた。

あーあ

ここまで、か

遠くで土方の声がしやがるが、もうじき何も聞こえなくなるんだ

最期にアンタの声なんか聞きたくねェよ

俺を見下ろす紅い眼。

Aと出会ってからの事が、走馬燈のように駆け巡った。

「大江戸病院にて薬師を勤めております、久坂美羽と申します」

「そよ姫様を、攫いに来たのよ」

「‥だから、死ぬんじゃないわよ」

「ありがとう、総悟。貴方のおかげで大事なものを失わずに済んだわ」

じっと俺を見つめる紅い瞳[め]。

この瞳に囚われちまったのが、運の尽きだったのかもな

薄く笑い、眼を閉じた。

覚悟を決めた――――刹那。

「鵺様。虚様がお呼びです」

想像していた痛みはいつまでたっても来なかった。

代わりに聞こえたのは、野郎の野太い声。

俺に振り下ろされる筈の刃は、目と鼻の先でピタリと止まっていた。

刀から声の聞こえた方へ目線だけ動かす。

俺達の戦いに介入する事なく、沈黙を保っていた一人の奈落。

そいつの手には、一羽の烏。

ひらり、視界に黒い物が過ぎった。

翅をはためかせ、Aの周りを舞う一匹の黒い蝶。

その姿を一瞥すると、今にも眉間を貫こうとしていた剣を鞘へと戻し、踵を返すA。

今の今まで死闘を繰り広げていた――――そんな事、初めからなかったかのように。

「おい、待て、よ‥‥A‥」

ずるずると鉛みてェに重い体を引き摺り、Aの名を呼ぶものの アイツは振り向く素振りさえみせやしない。

その間にも着々と歩を進め、俺達から遠ざかっていく。

返事ぐらい、しやがれってんだ‥

届かない言葉にギリッと奥歯を噛み締めた。

Aの後に続く奈落の一人が振り返り、一言

「命拾いしたな、小僧」

吐き捨てるようなセリフ。

冷たい目が俺を見下ろしていた。

今のザマをみてりゃ、返す言葉もないそれに強く拳を握りしめる。

「‥オイ‥‥待ちやがれ、ってんだろ‥

‥‥A、

Aァァァァァァァ！！」

それは、天上に輝く月を掴もうとするのと同じだった。

届かないと解っていても、遠く離れた天へと手を伸ばす事を止められなかった。

闇夜に虚しく かき消える慟哭。

吠えても、咆えても、背を向けたAが振り返る事はなかった。

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