【銀魂】花一匁 肆

第百四十三訓：誰もみんな消えていく夢を視た ページ2

頸動脈を絞める力の弱まりを感じた。

手を払い、距離をとる。

ゲホゲホと咳き込み、肩で浅い呼吸を繰り返す。

顔を上げた先に、あの子はいなかった。

「先生」

振りかえると、そこにいたのは――――朧。

彼の腹には刀が深く刺さり、黒い服には べっとりと血が広がっている。

「どうして、私にこんな物を託したのですか‥」

目の前に差し出されたのは、奈落を抜ける際、この子に託した五瓜の守。

朧同様 血にまみれ ボロボロになったそれは、彼の映し鏡のように思えた。

「あなたのいう絆とやらは、私を護ってくれませんでした」

力なく笑う朧。

その表情は昏く、痛ましいものだった。

違う、そうじゃないの‥

言葉にしたくても、声が出なかった。

首に手を伸ばすと、小さな手の痕がくっきりと残っていた。

「この期に及んで 言い訳探しか？みっともねェ。お前にとって俺達はただの玩具だろ、ペテン師さんよォ」

傷を負った左目から血を流す晋助。

右の眼が ギロリと私を睨みつける。

向けられた嘲笑。

一身に浴びる 憎悪の眼差し。

愛しい子に向けられる負の感情に、心が抉られる。

「あなたはいつも俺達の行く道を照らしてくれた。だがその先に、道は続いているのでしょうか」

頭から血を流す小太郎。

その眼には光ではなく、絶望が宿っていた。

カタカタと震える身体。

冷たい目を向ける弟子達に、一歩また一歩と足が後退していた。

「お前は、俺達の師じゃねえ」

きゅっと唇を噛みしめる。

気付くと足が駆け出していた。

だけど、走っても走っても、耳から呪いの言葉が消えない やまない。

眼を閉じても、瞼の裏であの子達が私を見つめていた。

“お前は俺達を裏切ったんだ”

ごめんなさい

貴方達を不幸に陥れてしまったこと。

貴方達に背を向けてしまったこと。

深い闇の中を ただひたすらに走り続けた。

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