【銀魂】花一匁 参

第百三十七訓　それぞれの為すべき事 ページ44

――――ドッ

また一つ、大地から光の柱が現れる。

そして眩い光の出現と同時に、崩壊する建物。

そこから発生する黒い煙。

「あの光は一体何なの！？片栗虎、みんなは‥‥江戸の人達は大丈夫なのよね」

そよ姫の問いに、無言を貫き、踵を返す松平。

「姫を安全な場所へ」その一言を残して。

「安全な場所なんてどこにあるの」

龍脈の暴走――――不測の事態が起こってしまった以上、最早 為す術がない。

今いる場所ですら、一秒後 その安全は確保されていない覚束ない状況。

さらに 次に光の柱が何処から出現するか予測すら困難なため、この惨状を見守る事しかできない――――否、この惨状を眺める事ができるのは むしろ幸運に近い。

「他の連中の無事を信じたいのは解るけど、あまり求めすぎると 後が辛くなるわよ」

「‥‥‥‥」

「‥‥ケッ。身も蓋もねェ言い方しやがって」

淡々とあるがままの事実を述べる信女に、口を噤むそよ姫。

露骨なまでの物言いだが、目の前の惨状を前にしては、かえって親切なのかもしれない。

松平は遥か彼方 宇宙を見据え、ひとり呟く。

「上には 星さえ砕く雷神。下には 天さえ引き裂く龍神ときちゃあ、蓋なんざ閉めようもねェか。なら、俺達にやれる事は何だろうな」

『相変わらず腑抜けた面を下げおって、其方、それでも狛神かぇ？』

バッと振り返ると、そこには黒髪の女が気だるげに此方を見つめていた。

だが、突如現れた彼女に反応する者は定春を除いて他にいない。

眼に力を集め、グルルと威嚇する。

『ほぅ。狛風情が妾に牙を向けるか』

妖しく笑った女が空で陣を描く。

淡い光を放つそれは、定春の額に吸い込まれていった。

ドクン、体内で大きく脈打つと、その眼に神楽と交わした約束を映し出す。

「定春、のぶたすとそよちゃんの事は頼んだヨ。

お前は私達のマネッこなんてする必要はないヨ。
お前には お前にしかやれない事があるはずアル。どんな事だっていい。それぞれがそれぞれの やれる事を精一杯やるネ。

それが地球に積もり積もれば、きっと 地球だって 何だって救えるアル。

そうでしょ、定春」

荒廃していく江戸の街を一人眺め、悲しみに暮れるそよ姫。

“もう泣かないで”と“いってきます”の意味を込めて、彼女の頭をペロリと舐めた。

「‥‥‥定春、くん？」

振り返った先には、誰もいなかった。

「わん」

己が見つけた 成すべき事のために、定春は走り出した。

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