【銀魂】花一匁 参

第百九訓　微笑みで覆われた世界の姿 ページ16

「白フンの西郷ともあろうもんが、随分と手こずらされたもんだよ。荼吉尼ってのは、思った以上に厄介な奴ららしいね」

一人倒すのにすら このザマ。

にも関わらず、化物じみた傭兵部隊を擁する解放軍が大軍を率い、この かぶき町へ侵攻を続けている。

壁の外も、中も 待ち受けているのは、地獄に変わりはなかった。

「壁となって、外の大軍勢相手に戦って死ぬか。それとも、内側の怪物どもと戦って死ぬか」

駆け抜けた先は昏く、陽が みえない。

だからせめて好きな方を選べ という銀時とは真反対に、西郷は笑った。

どちらでもない、と。

「なら私も、貴方達が生き残る奇跡を選ぶわ」

――――ドシャァァァ

目前に迫っていた解放軍が、一瞬で地に伏した。

その姿に、目を細めた。

「‥‥‥遅ェぞ」

斬り伏せた敵の中心に佇むA。

タンッと軽く地を蹴った 次の瞬間には、その姿は敵の懐にある。

現れたと思えば、一瞬のうちにして姿を消し、別の敵陣に現れる。

そして敵陣から姿を眩ませた コンマ数秒後には、一人として その場に立っている者はいなかった。

気付いた時には、既にその生命は刈り取られている。

修羅のような強さを誇るAに、味方ながら畏怖の念さえ抱いちまう。

「悪かったわね‥‥色々と」

背中越しに見えたAは、曖昧な笑みを浮かべていた。

紅い眼に差す 僅かな影。

迷いや苦しみ ずっと抱えていた筈の 自分の肚の内は何一つ見せず、いつも笑ってたAがみせる初めての面。

そいつを横目に、ひとつ吐息を漏らすと、進軍する解放軍を迎え討った。

不思議な話じゃねェか

寺子屋で仰いだ二人の師匠[せんせい]。

その一人は倒すべき敵で、剣を交える事となった。

もう一人は背中を預け、護るべきもののため 共に剣を取る事となった。

「銀時」

Aに名を呼ばれ 意識が浮上する。

「私も、戦うわ」

己と向き合い、茨道をゆく事を選択したAの面が、いつかみた 松陽のそれと重なった。

Aは俺達と違う時間を歩む存在なのかもしれねェ

だが、自分の弱さと戦うコイツは、間違いなく俺達と同じ人間だ

「外は私達が引き受ける。中は、街は‥‥貴方の大切なものは、貴方が護りなさい」

俺達の行く道を照らしてきた 凛とした声。

その声の力強さに、口角が上がる。

ああ、と短く返し、Aの隣を駆け抜けた。

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