第九十五訓 愛しい影は残酷な現実を照らす ページ1
「お前はコイツの‥‥俺達の師じゃねえ」
晋助に言われた言葉が頭の中を反芻する。
向けられた憎悪の眼差しが、瞼の裏に焼き付いて離れない。
ぽつりぽつりと雫が頬を伝う。
どうやら、空が私の代わりに泪を流してくれているようだ。
こうなる事は、はじめから解っていた
あの子達の前から姿を消すと決めた時から
奈落に身を置き、あの人の隣にいると決めた時から
いいや、きっと ずっとその前からだ
今まで明るみに出なかっただけで、影は隣に存在していた
そして、そのしわ寄せが来ただけじゃないか
「‥‥寒いわね」
雨に鬱陶しさを感じた事はあっても、冷たさを感じる事なんて今までなかったのに
「あ、ははっ‥‥」
渇いた笑いは雨音にかき消された。
意識が混濁する中、ひとり森を彷徨っていると、前方に人影が見えた。
どうして 今 貴方に会っちゃうのよ
「虚‥‥‥」
赤い目が妖しく細められた。
「随分とつらそうな顔をして、なにか悲しい事でもありましたか」
息を、呑んだ。
彼の声が、あの頃の優しいものだったから。
困惑を隠せないAに近づいた虚は、そっと抱きしめた。
彼の匂いが、温もりが、心をかき乱す。
晋助に向けられた憎しみの目から、身を賭して護ってくれたあの子を見殺しにした罪悪感から目を背けたくなる。
ここまで走ってきた歩みを、止めそうになる。
懐かしい 愛おしい人に触れると、積み上げてきた決意が いとも容易く崩れ落ちそうになる。
「苦しいなら逃げ出してしまいなさい。悲しいならその目を閉じてしまいなさい。そうすれば、これ以上あなたが傷つく事はありません」
求めた腕がAを包み込む。
背中に感じる温もり。
頭を撫でる、大きな手。
触れられた部分から、心が溢れ出しそうになる。
雨で冷たくなった躰に、貴方の熱が、沁みる。
「あなたはよく頑張りました。充分痛みに耐えてきました。抗う事をやめ、楽になりなさい」
このまま、ずっと、この人の腕の中にいたい
貴方が傍にいるなら 何処だって構わない
深い闇の中で、微睡んでいたい
「私‥わ、たし‥は‥‥」
もう 何モ 考エタクナイ
わなわなと震える腕を彼の背に回そうとした瞬間、耳元で嗤い声が聴こえた。
「弱くなりましたね。鵺」
息が、できなかった。
見上げたそこに、優しい彼の面影が なかったから。
「今のあなたでは、何を成すことも、何を護ることもできない」
赤い目は虚ろで、冷ややかで、どこまでも残酷だった。
「君は無力だ」
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椿(プロフ) - 朱寧さん» めちゃくちゃ嬉しいコメントありがとうございます(´;ω;`)この先シリアスが続きますが、どうぞ温かく見守ってやってください(ペコリ) まだまだ暑くなりますので、朱寧さんも熱中症等にお気を付けください! (2018年7月31日 0時) (レス) id: 29cb1b4279 (このIDを非表示/違反報告)
朱寧(プロフ) - 本当に面白いお話で、もう続きがすごく気になります!!何と言うか、少し切ないからこそ素敵なお話なんだなあ、と感じました。原作に寄り添っている感じがして、読んでいて幸せでした。長文失礼しました、お体気をつけて頑張って下さい! (2018年7月30日 23時) (レス) id: 28fe66ac14 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - まっちゃあいすさん» ありがとうございます!全力でガンバリマス(`・ω・´)ゞ (2018年7月17日 22時) (レス) id: 29cb1b4279 (このIDを非表示/違反報告)
まっちゃあいす(プロフ) - 続編おめでとうございます!これから先の展開にワクワクです。更新頑張ってください!!! (2018年7月17日 14時) (レス) id: c64bf4929c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿 | 作成日時:2018年7月16日 21時