『インモラル 4』

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電車が来るまでホームで待つ間、玉森くんが私のコートを脱がしてきた。

「…なに」

「こんな濡れたコート、脱いだ方がいいよ。俺の上着着て」

「スカートに合わないからやだ」

「んなこと言ってる場合じゃないでしょ」

「…偉そうに」

けどされるがままの私。

玉森くんが突然フッと笑った。

「…何よ」

「んーん、別に」

嬉しそうに笑う玉森くん。人の不幸は蜜の味って感じ？ムカつく。

電車が来たから乗り込んだ。なんでこんな混んでるのよ。しかもカップルだらけ。ほんと気分悪い。

「大丈夫？」

玉森くんが私をドア側にして立ってくれたからそこまで押されなくて済んだ。

「大丈夫じゃない。狭い」

「わがままっすね」

すごくやな感じのこと言ってるのに、私に笑いかける玉森くん。

これじゃどっちが年上かわかんないじゃない。

「今度は何にムカついてんの？」

顔に出てたのか玉森くんに苦笑された。

「玉森くんにきまってんじゃん」

「ひで〜」

んはは、って笑ってるし。

「…ありがとう」

上着とか、色々。

「ん？よく聞こえない」

「一回しか言わない！」

ニヤリと笑う玉森くんに、聞こえてんじゃん、と心の中で悪態をついた。

「クリスマスとか、バカみたい…」

私が呟くと、少し哀しげな顔で微笑む玉森くん。

「俺ね、クリスマスに少しでもAちゃんと一緒に過ごせて嬉しかったよ」

「え…」

「俺のほうこそ、ありがとう」

ぎゅっと抱きしめられて、切なくなった。

その言葉は、藤ヶ谷さんに言われたかった。

ホールケーキを前に、Aちゃん、って優しく微笑む彼が、「一緒に過ごせて嬉しい」って。

あの大好きな甘い声で言って欲しかったのに。





玉森くんは私の降りる駅で一緒に降りてくれた。

「じゃあ、また」

手を振る玉森くん。

「あ、上着…」

「いいです」

「でも、」

「いいから」

「…ありがとう」

「帰ったらちゃんと身体温めるんだよ」

「はぁい…」

「そうそう、素直が一番」

何それ。
けど、ありがとう、玉森くん。

あのまま一人で待ってたら、私ほんとにどうにかなっちゃいそうだった。



家に帰って一人になると、またどうしようもない寂しさが襲ってくる。

もしかしたら電話が来るかもしれないと思い、携帯を握りしめた。

来るはずがないのに。

ベットに潜り込んで目を閉じた。

せめて夢で会えることを願って。

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