『インモラル』

38 ページ38

「あの、ほんとに送らなくていいです」

「ダメだよ。外はもう真っ暗なんだから」

藤ヶ谷さんが頑なに「送る」と言って聞かないから、自宅まで二人で歩いた。

みっくんに会ったらどうしよう。

でも飲んでくるって言ってたから、まだ大丈夫だよね…？

自宅のマンションが見えてきてホッとしたのも束の間、マンションの入り口にみっくんが立っていた。

嘘、どうして？

「A…何で藤ヶ谷といんの？」

「みっくんこそ…飲みに行くんじゃなかったの？」

声が震える。

「…お前の様子がおかしかったから心配で帰ってきた。携帯も繋がんねぇし」

「ご、ごめんなさい…」

「話は家で聞くから、来いって」

腕をぐいっと引っ張られた。

「北山」

「…何だよ」

「Aちゃん、体調崩してカフェでぐったりしてたんだ」

「え？」

しかめっ面だったみっくんの表情が緩んだ。

「だいぶ落ち着いたみたいだけど、気を付けてみててあげたほうがいいかも」

「そうなんだ…。悪かったな、A。歩けるか？」

「う、うん…」

「よし、行こう。藤ヶ谷、じゃあまたな」

「…おやすみ」




みっくんに嘘をついた。

私も、藤ヶ谷さんも。




「何か様子がおかしかったから俺ほんと心配したわ。お前が携帯繋がらなかったことなんて今までなかったし」

「ごめんね、みっくん…」

さっきはあんなに幸せだったのに、今は物凄い罪悪感のみが残った。

「いや、別にいいけど…。無理すんなよ」

「ごめんなさい…」




お風呂から上がると、ビールを飲んでいたみっくんが「もう大丈夫か？」って心配してくれた。

「うん、もう元気」

へらっと笑うとみっくんが立ち上がって私の前に立った。

「な、何…」

「お前がいつも家でご飯作って待っててくれんのが、ありがたいことなんだなって気づいた」

「みっくん…」

「真っ暗な家に帰るのなんか久々でさ、すげぇ寂しかった…」

みっくんが私を抱きしめた。

顔を近づけられて、思わず逸らしてしまう。

「A？」

今日はキスしたくない…。

藤ヶ谷さんの感触を忘れたくない。上書きされたくないから。

「…来て」

寝室に誘われるけど、首を振る私。

「何で？」

「…体調、悪かったし」

みっくんは何か言いかけたけど「わかった」って呟く。

意外にも諦めてくれるみっくんに安堵した。

「Aさ」

「何…？」

「最近、赤ちゃんの話しなくなったな」

みっくんの射抜くような瞳に身体が硬直した。

39→←37

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す