『インモラル』

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軽く唇が触れる感覚がして、身体がビクッとなる。

けどそれじゃ物足りない。

そっと目を開けると、見たことないような藤ヶ谷さんの瞳に腰の辺りがゾクッとした。

「…したよ。だから帰ろ？」

言葉とは裏腹に、藤ヶ谷さんは私を抱き寄せたままで、あの触れて欲しくて堪らなかった長い指で私の唇をなぞった。

「もっと…」

「もっと、何？」

口に出すのは恥ずかしいから、自分からキスをして舌を入れた。

でもいつもみっくんにされるがままの私は、どうやって舌を絡ませたらいいかわからない。

唇を離して「ごめんなさい…上手くできなくて」って謝ると藤ヶ谷さんは「そうだね、なんか慣れてない感じ」って言って微笑んだ。

軽く落ち込み下を向くと、顎を指でぐいっと上げられて視線がぶつかる。

「そういう子のほうが、好き」

その言葉に嬉しくなってぎゅっと目を瞑ると、「可愛い」って言って瞼にキスをする藤ヶ谷さん。

「口、開けて？」

甘やかすような声に頭が痺れる。

口を少し開けると、藤ヶ谷さんの熱い舌が入ってきた。

「んっ、んぅ…」

みっくんとは違う、優しいけどでも激しいキスに、身体中が歓喜に震えた。

藤ヶ谷さんの背中に手を回した。

今だけ。

少しだけだから。

あなたを独占させて下さい。




ブーッ。ブーッ。

携帯のバイブ音が鳴り響いた。

藤ヶ谷さんがハッとした顔をした。

…夢から醒めちゃった。

きっと彼は酷く後悔をして、今度こそ私とは二人で会ってくれないんだろうな。

携帯を見ると着信相手はみっくんだった。

時間は19時。
まだ帰ってくる時間じゃないのにどうして…。

「も、もしもし」

『もしもし？俺。今日さぁ、飲んで帰ってくるから飯いらねぇわ』

「あ…うん」

『ちゃんと連絡したぞ〜』

珍しく優しいみっくんに胸が痛む。

「みっくん、ありが…ひゃっ！」

藤ヶ谷さんが後ろから抱きしめてきて、首筋に唇を這わせた。

『A？どした？』

「な、んでも、ない…」

『またドジしたの？アホだよなぁ、お前』

「んっ、うん…」

『…A？』

みっくんの声が少し低くなった。

そこで藤ヶ谷さんが携帯を取り上げて、電源を落とした。

「今は俺に集中して。ね？」

「はい…」

このまま時が止まって欲しい。

そのくらい今が幸せすぎて。

この嘘と欲にまみれた世界から、抜け出せない。

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