『インモラル』

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「お前さぁ、藤ヶ谷になんかしたの？」

あの夜から何日か経ったある日、テレビを観ながら横になってるみっくんに唐突に言われ、洗い物をしていた手からお皿を落としてしまった。

お皿は割れなかったけれど、ヒビが入ってしまった。

「え…どうして？」

「ん〜？なんかさぁ、うちに誘っても来たがらないんだわ。外飲みならいいらしいんだけど」

「…」

何て答えるのが正解か、わからない。

「料理が、美味しくなかったのかも…」

「…ふぅん」

みっくんはテレビを消すと、立ち上がって私の隣に来た。

「な、何…？」

「皿、落としたの？」

「うん…ごめんなさい。これ、お義母さんにいただいたお皿だったのに」

「別にいいけど。捨てろよ」

「でも…」

「ヒビが入ったならもう修復不可能だろ」

みっくんの言葉に違和感。

「え…？」

「お皿の話。な？」

戸惑っている私に「風呂入ってくるわ〜」って言って、みっくんは離れていった。

みっくん、何か聞いてるのかな。

ううん、聞いたなら私と一緒にいるはずがない。

…藤ヶ谷さん、私に会いたくないんだ。

私はあれから毎日藤ヶ谷さんのことを考えてるのに。

あの瞳に見つめられたい。

あの甘い声で愛の言葉を囁いて欲しい。

あの手で私を穢してほしい。

彼を思うとなんだか息苦しい。

だけどこの苦しさがものすごく心地いいの。

藤ヶ谷さん。

会いたい。




翌日、仕事終わりに今井さんと休憩室で話してると、玉森くんが出勤してきた。

「あ、ちょうど良かった」

玉森くんは私の隣に座った。

「何が？」

「北山さんくらいの年齢の女の人って、何もらったら嬉しいの？」

「…何かくれるの？玉森くん」

両手を差し出すも、手のひらをペチンと叩かれた。

この間一緒にいた女の人がどうやら誕生日が近いらしく、プレゼントをあげたいみたい。

でも学生の玉森くんが出せる金額なんてしれてるし、結局あまり大したアドバイスはできなかった。

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