『インモラル』

29 ページ29

藤ヶ谷さんの手を握りしめてる自分の手が震えてるのが頬から伝わる。

何をしてるんだろう。

自分がわからなくなる。

藤ヶ谷さんの様子を伺うと冷めた顔をしてる藤ヶ谷さん。

「離してくれる？」

真っ赤な私とは対称的に冷静な藤ヶ谷さん。

藤ヶ谷さんだって飲んでたはずなのに。酔っ払ってても靡かないなんてよっぽど私に興味がないんだ。

「嫌です…」

目をぎゅっと瞑り、藤ヶ谷さんの手のひらに頬を擦り寄せる。

まだ触れていたかったのに、無理矢理手を引っ込められてしまう。

「…北山が心配するといけないから、家に帰ろう」

「帰らないです…」

「何言ってるの？」

もう藤ヶ谷さんの表情を怖くて確認できない。きっとすごく軽蔑した顔をしてるはずだから。

「もう少し一緒にいたい、です…」

藤ヶ谷さんは飲んでるから運転を代われない。

私をここに置いて歩いて帰ることもできるけど、優しい藤ヶ谷さんはきっとそんなことはしないはず。

つまり、私が帰らなければ藤ヶ谷さんも帰れないのだ。

藤ヶ谷さんもその事実に気づいているからか、苛立ったように息を吐いた。

「北山に迎えに来てもらおうか。電話するよ」

携帯を取り出す藤ヶ谷さん。

みっくんが来たら藤ヶ谷さんは帰ってしまう。

私は素早く藤ヶ谷さんから携帯を取り上げた。

「返してくれる？」

「…」

「ほんとに怒るよ？Aちゃん」

「…」

藤ヶ谷さんが身を乗り出して携帯を取ろうとしたから、胸元から自分の服の中に入れた。

取れるものなら取ってみてよ。

服の中に手を入れて取るなんて、藤ヶ谷さんには出来ないはず。

呆れて物も言えないような状態の藤ヶ谷さんに、優越感。

「…生意気だな」

藤ヶ谷さんは片手で私の両手首を掴むと、空いた手で服の中に手を入れたから驚いた。

「変態っ！」

「…あのね、Aちゃんがさせてるんだよ？」

ポイッと中に入れてただけの携帯はあっさりと見つかってしまった。

「ほんとに北山にかけるよ。いいの？怒られちゃうよ？」

しれっと言う藤ヶ谷さん。

私と一緒に居たい気は更々ないみたい。

しかも服に手を入れても携帯だけを触って、私の身体には全く触れなかった。

私にも、私の身体にも、全然興味を持たれてないことがすごく虚しい。

「ほら、運転して」

藤ヶ谷さんに急かされて、仕方なく運転しようとしたけど、我慢してた涙がパタッと零れた。

30→←28

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す