『インモラル』

24 ページ24

それから何日かして、あの日のことを思い出す度に胸が痛んだ。

楽しかったのに。

あのままでも良かったんじゃないの？

一線を超えなければいいんだから。

でも私、我慢できたかな。

もっと藤ヶ谷さんにはまってしまったら、それこそ戻れない気がする。

平日の昼間でお客さんは少なくて、商品整理をしていると、今井さんに呼ばれた。

「北山さん、高城出版さんから電話」

藤ヶ谷さんだ。そろそろお店に来る時期だし。

「…はい、北山です」

『北山さん、高城出版の藤ヶ谷です。いつもお世話になっています』

北山さん、だって。

「お世話になっています」

『本日お店にお伺いしたいのですが、ご都合はいかがですか？』

「午後はレジ番ないので、16時までならお店にいます…」

『わかりました。じゃあ本日伺いますね』

今日、来るんだ。

休憩時間に念入りに髪型やメイクをチェックする痛い私。

14時を過ぎた頃、藤ヶ谷さんがお店に訪れた。

「こんにちは。高城出版です」

高城出版じゃなくて、藤ヶ谷さんでしょ。

なんて毒づくも、仕事中なんだし当たり前でしょと自分に突っ込みを入れた。

「売り場のチェックしてからまた声をかけますね」

「はい、よろしくお願いします」

視界に入れたくないのに、つい目で追ってしまう。

真剣な横顔をぼんやり見つめてると、藤ヶ谷さんがこっちを見た。

前なら目が合えば微笑んでくれたのに、パッと反らされてしまう。

やな感じ。

イライラしながら返本依頼のファックスを書いていると、玉森くんが出勤してきた。

「北山さ〜ん、外マジでめちゃめちゃ暑いっすよ」

「あれ？今日早いね」

「今日小野さんが夕方からしか来れないみたいで。俺今日午前で講義終わりだから」

「ふ〜ん、あ、じぁあファックス書くの手伝ってよ。大量にあるし」

「え〜、めんどくさいな」

「お給料もらってるんだからやりなさい」

「こわっ」

イライラしてる私は玉森くんをグーでパンチしようとしたけどかわされてしまう。

「んはは、んなパンチ食らうほどトロくないんで」

むっかー。

絶対パンチしてやる。

玉森くんの腕を掴んでパンチしようとしたら、「北山さん、今よろしいですか？」って藤ヶ谷さん。かなり冷めた顔でこちらを見ている。

仕事中なのに遊んでるって、更に幻滅されたんだろうな。

「はい、大丈夫です」

玉森くんにファックスの紙を押し付けて、藤ヶ谷さんと児童書売り場に向かった。

25→←23

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す