『インモラル』

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「佐伯さんっていただろ？めっちゃ美人だったよな〜」

酔いもまわってきたのか、昔話に花が咲くみっくん。

「そうだな」

「あ〜、同窓会とかねぇかな。会いたいわ〜」

知らない人の話ばっかでつまんない。

下を向いてため息をつくと藤ヶ谷さんが、「北山さんはいつから絵本が好きなんですか？」って訊いてきた。

いきなり話しかけられてびっくりしたけど、でも会話に入れてくれたことが嬉しくて。

「あ、私は…」

「別にコイツ、絵本が好きなわけじゃねぇよ」

何でみっくんが応えるのよ。

「そうなんだ」

「でも、昔から好きな絵本はあります」

話を繋げたい私はそう言った。

「興味ねぇし」

みっくんが枝豆をつまみながら呆れたように「なぁ？」って藤ヶ谷さんに同意を求めた。

だけど藤ヶ谷さんは「いや、興味あるよ」って言って少し身を乗り出した。

「何ていう絵本ですか？」

「えっと、」

「それより藤ヶ谷、コイツさ、「赤ちゃんが欲しい」ってうるせぇんだよ」

「赤ちゃん？」

藤ヶ谷さんが目を丸くした。

「ちょっとみっくんっ…」

「今日は排卵日だから〜、とか必死でさぁ。こっちは疲れてる日もあんのに勘弁してほしいよ」

固まる私と藤ヶ谷さん。

みっくんの無神経な会話は続く。

「女から誘うとか、ひくよな〜」

ひどい。

「…」

藤ヶ谷さんが私を心配そうに見ている。

恥ずかしい。こんな話、聞いて欲しくない。

「この前だってさぁ」

「北山」

「何だよ」

「ちょっと苛めすぎ」

優しい藤ヶ谷さんに涙が出そうになった。

「苛めてねぇから。つか俺の女なんだからどう扱おうと俺の自由なの」

みっくんのギスギスした言葉に部屋がシーンとなった。

友達がいるのにこんなに感じの悪いみっくんは初めてで、不安になり胃がキリキリと痛んだ。

ピンポーン。

誰だろう…。

モニターを見ると、一美さんだった。

玄関へ行きドアを開けると、回覧板を手に微笑む一美さん。

どうしていつも回覧板を渡すのにいちいちチャイムを鳴らすのか全く理解できない。

「ありがとうございます…」

回覧板を受け取ると、「今日も旦那さんのお友達が来てるんですか？」って聞かれた。

どうして知ってるの？

騒がしかったかな。

「あ、うるさかったですか？ごめんなさい…」

「あっ！違うの。ただ楽しそうだから羨ましいなって」

「あぁ…」

今めちゃめちゃ空気悪いけど。

「うちの主人は全く友達連れてこなくて…赤ちゃんいますしね」

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