ぼくたちの失敗

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「敵だと思った相手に羽音を立てて飛び回って、カチカチと大アゴを鳴らして警告音を鳴らすんだよ」

まるで「身を引くなら許すから今のうちに消えろ」って言ってるみたい…。

「ほんとは蜂も攻撃したくないんですかね」

「まあ、攻撃したら息絶えてしまうからさ」

意外に蜂も必死なんだなぁ。

「それよりさ、これ覚えてる？この間Aに種を植えてもらった、マリーゴールド」

「はい…」

前に、お昼休みにぼ〜っと休憩室から庭を見つめていたら先生が庭に出て来て、私に気づいて手招きをしたから、私は庭に降りていったんだ。

そしたら種まき、一緒にしよっかって誘われて。

もう子葉が生えてきたんだ。

可愛らしい子葉が生えているところの前にしゃがむ先生。

私も隣にしゃがみこむ。

「この花が咲く頃には一緒に暮らしたいな」

「えっ…」

「いい返事、待ってるよ」

花が咲くのはいつ頃なんだろうか。

今は子葉の段階だからまだまだ先かな。

「私、あの後マリーゴールドがどんな花なのか調べてみたんです。花に全然詳しくないから…」

うちは花を育てるような裕福な家庭ではなかったから。

「わざわざ調べたの？偉いな」

優しく微笑む先生。

そんなちょっとしたことなのに褒めてもらえて、なんだかくすぐったい。

「すごく可愛らしい花なんですね。咲くのが楽しみ…」

「花言葉は全く可愛らしくないけどね」

「マリーゴールドの花言葉って何ですか？」

「嫉妬、絶望、悲しみ」

確かそんな感じ、って先生は言った。

「あんなに可愛らしいのに…」

「色によっても違うみたいだけど」

「どういう風に？」

「…ああ、ごめん、俺しったかぶってる」

照れ臭そうに笑う先生。

「ほんとはよく知らないんだ。花言葉は母親が好きで昔から聞かされたくらいで」

「奥様、花言葉が好きなんですね」

「みたいだよ」

話のきっかけになるかもしれない。

とにかく、マリーゴールドが花を開くまでに、返事をしなきゃ。

先生は俯く私の顔を覗きこむと、ふわりと微笑んだ。

「一日の終わりに愛しいAの顔が見られたら、俺幸せ過ぎて幸せボケしちゃうかもな」

「えっ…」

顔が赤くなる。

そんな風に言われたらますます断りにくい。

「A〜」

なみちゃんがお買い物から帰って来て、そこで話は終わってしまった。




彼との地獄の日々が
すぐそこまで迫ってきていることに
この時の私はまだ気づかない─────

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