ぼくたちの失敗

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浩輔さんは感情の色のない顔で私の手首を擦った。

ふと、何か思い付いたような顔をした後で浩輔さんが地下室から出ていった。

…どうしよう。

ここを出たほうがいいかな。

それともこのまま太輔先生が来るまで待つか。

立ち上がり、銃が入っていると聞いた背の高い金庫に近づく。

鍵がかかっている。

そっと鍵に触れた時、地下室の扉が開いた。

見るとそこには私が奥様に送った鉢植えを手にした太輔先生がいた。

すごく驚いた顔をしている。

それはそうだ。

拘束しておいたはずの私が自由になっているのだから。

「…なんで？」

「あ、あの、浩輔さんがさっき地下室に来て、それで…」

浩輔さんの名前を出したら先生の顔が険しくなった。

鉢植えをテーブルに置く先生。

目を合わせるのが怖くて鉢植えに視線を移した。

ふっと視界が暗くなる。

先生は、私の目の前まで来ていた。

「…浩輔に助けを求めたの？」

刺すような視線を感じる。

「黙ってたらわからないよ」

手首を掴まれ、痛みに顔をしかめた。

「A」

そこで扉が開く音がした。

「あーにきっ」

振り返ると、浩輔さんと由宇さんがいた。

「太輔…」

戸惑っている由宇さんの肩を抱く浩輔さん。

「兄貴、駄目だよ。そんな風に女性を扱ったら」

手首を引っ張られた状態で少し前のめりになっている私。

由宇さんがこちらに近づいてきて、太輔先生の手をそっと離した。

ふと、由宇さんの視線が私の手首へいった。

見られたくなくて私はパッと後ろに手を回した。

「…太輔、Aさん怯えてるわ」

困惑した顔の由宇さんの言葉に顔色ひとつ変えない先生。

鉢植えを手に取ると「行こう」と私に言った。

先生についていき扉を開けたけれど、ふと振り返った。

複雑そうに私を見る由宇さんと含みのある笑みを浮かべる浩輔さん。

軽くお辞儀をして扉を閉めた。




地下室から上がり、階段を登る先生についていこうとすると奥様に出会った。

「Aちゃん…、大丈夫なの？」

え？何がだろう…。

「は、い…」

とりあえず返事をしておいた。

先生が持っている鉢植えに気づいた奥様の顔が歪んだ。

「あの、Aさん。本当にごめんなさいね。私びっくりしてしまって、あんな失礼な態度を」

「いえ、あの、私が無知で…。本当に申し訳ございませんでした」

鉢植えを受け取ろうとする奥様に「これは俺の部屋に飾るから」と太輔先生は言うと、階段を上がっていってしまったから、慌てて追いかけた。

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