ぼくたちの失敗

25 ページ27

「思い通りにならないとって…」

「自分の管理下にないと気に入らないんだ。自分のことしか考えてないんだよ」

「先生は、普段はすごく優しくて…。そんな人じゃないです」

私は先生の優しさを知っている。

仕事し始めの頃、レセプトがわからなくて泣きそうになっていた私に、診察時間が終わってから遅くまでずっと付き添って教えてくれたこと。

治療が怖くて泣いちゃう子どもに決して急かしたりイライラしたりしないで、どうにか楽しく治療できるようにいつもたくさん工夫してあげていること。

「普段は優しいかもしれないけど、突然あんな風に豹変するだろ。そのくせ、散々傷つけたことを詫びてくる。まるでこちらが悪いかのように酷く哀しい顔をして」

「北山さん…どうしてそんな」

「俺の母親がDVをうけてたから」

「DVって…、先生は違います。暴力なんて一度も」

「言葉の暴力だってあるんだよ」

「…」

「俺、Aちゃんが心配なんだよ。優しい性格だからつけこまれやすい気がして」

「…でも」

「すぐには決めなくていいから。多分色々言われて混乱しちゃうよな」

北山さんが優しい声でそう言って、私の肩をポンと叩いた。

やっぱりなんだか北山さんは安心する。

私に合わせてくれてるというか、自然に歩調を合わせてくれるから。





北山さんは少し時間をあけてから帰っていった。

にしても、北山さんのお母さんがDVをうけていたなんて…。

今は大丈夫なのかな。

気になるけど、とても聞けなかった。






好きな人好みの自分でいたいのに。

もっと好きになってもらいたいのに、傷つけてしまった。

でも、言葉で言うよりももっと、自分を変えるのって難しいよね。

…もしかして、先生もそうなのかな。
だからあんな哀しい顔をしていたのかも。

──私、もっと頑張ろう。

先生をたくさん笑顔にしてあげられる自分になれるように。





そういえば、先生にさっき電話をかけた人は誰なんだろ。

画面を見てから先生は落ち着いたみたいだったけど。





…明日、先生と仲直りできたらいいな。

26→←24

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す